こころにぽっかり穴が開いたような、そんなかんじだった。朝お母さんの声で目が覚めて、ご飯をたべて学校に行って、教科書をひらいて窓の外を眺める。曇り空だった。天気予報、晴れだったのになあ。放課後 英語のノートを写させてもらいながら校門を見下ろしても帰っていく生徒の姿しかみえなかった。当たり前だ。


「外、誰かいるの?」
「ううん、いないよ」


いないんだよ、もう。ぽろっと漏れたささやきを拾われて、あたまをやさしく撫でられる。泣きたいようでそうじゃないような、よくわからない気持ち。元気だしなよ なにも言わないわたしにそう言ってくれる友だちに力なくわらい返して、じぶんの机に顔をうずめた。


もやもやもや、わたしのこころも曇り空。





学校から帰る途中、なんとなく家に帰りたくなくてふらりと道をそれた。いつかのケーキ屋さんを通りすぎると甘い香りがした。だんだんと雨のにおいに変わって、ついにポツリと地面にシミをつける。足早に進めばコンビニが見えてきて、ちょっとの間雨宿りすることにした。店から出てきた店員さんに迷惑そうな目で見られる。気まずいので自販機でなにか買うことにした。ゴトン 落ちてきたのはコーラだった。隣のココアを押したはずなのに……業者さんが入れ間違ったのか、わたしがボンヤリしていて押しまちがったのか。
飲めない炭酸をもてあまして小雨のなかを走り出す。かばんに折りたたみ傘があったことを思い出したのは家の目の前まで来てからだった。そこにはだれもいない。もうだれも来ない。アスファルトがぬれていく。





ごぽり 息をはくとあぶくが水面をゆらした。雨にぬれて冷えたからだには、お風呂のお湯はすこし熱い。



「一生の別れじゃないんだから」


なんの根拠もないのにそう言ったわたしに、スクアーロは答えなかった。だから また会おうね なんて無責任なことは言えなかった。さようなら できることなら言いたくなかったけど、他にさみしくならないお別れの言葉をわたしはしらない。


「さようなら」


先に言ったのはスクアーロだった。スクアーロはやさしい。さみしがりで意気地なしのわたしのことをちゃんとわかってる。次に返事ができなかったのはわたしのほうだった。最後に見たのがスクアーロの背中じゃなくて空港の床だったことを、わたしは一生後悔するんだろう。それともこの気持ちすら、いつか忘れていくんだろうか。





その夜わたしはいろいろなことをした。ほとんど終わっていた漢字ドリルを箱にしまい、神棚にならんだ折りヅル、ネイビーのマグカップを詰め込んでいく。ピンクのほうは食器棚の奥にしまった。代わりに昔使っていたネコの柄のマグカップを取り出す。これもお気に入りだったけど、きっとこれからは好きになれない。そんな予感がする。


ずいぶん小さくまとまってしまった。最後になかをじっくり見つめる。いろいろな気持ち 言えなかったさようなら 後悔。みんなつめ込んで、ガムテープで閉じた。


101017

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