ふたりが帰ったあとのこと。静かになったリビングでもう一度アルバムをめくってみる。生まれたとき、幼稚園のとき、小学校の入学式、運動会、七五三、学芸会、修学旅行のページ。卒業して、いちばん新しい中学校の入学式。なつかしい わたしの思い出。


「これはどこに貼るんだぁ?」


スクアーロが掲げてみせるのは、ついこないだ焼き増ししたスナップ写真。同じものがわたしのひざの上にも乗っている。動物園の安っぽい看板の前で撮ったそれには、にこにこわらってるディーノくんとわたし つまらなそうな顔のザンザスくんとスクアーロ。4人分焼き増ししても記憶がうすれることはなく、むしろ4倍鮮やかになったよう。
中学校の入学式、校門前でピースしてるわたしの隣には写真1枚ぶんのスペースが空いている。でもそこを埋めるのはなんとなく、なんとなく躊躇われた。


「…まだ いいかな」


スクアーロが不思議そうに首をかしげた。
生まれたとき、幼稚園のとき、小学校の入学式 アルバムっていうのはわたしの思い出で、思い出っていうのは終わってしまったこと。4人の写真はまだ色あざやかにそこにあるのに、もう思い出になってしまうなんて淋しい。思い出はいつかは霞んで消えてしまうものだから、わたしはまだ思い出にはしたくないのだ。
こんなたのしい時間がずっと続けばいい そう思うのはわたしが子供の証拠だろうか。


「わたしたち、ずっと子供でいられたらいいのにねえ」


しんみりとつぶやく。スクアーロは返事をしなかった。ふたり減ってずいぶんと静まりかえった部屋で、わたしはスクアーロと会った日のことを思いだしていた。
あの頃よりわたしはたくさんのスクアーロを知って、ディーノくんと出会い、ザンザスくんと仲良くなって、もっとたくさんのスクアーロがいることを知った。わたしはこれからもスクアーロのことを知りたい。もっとスクアーロと一緒にいたい。子供のままでいられたら ずっとこの時間がつづいてくれたなら。


「…そうか」


スクアーロはバカにするでもなく、同調するでもなく、ただそれだけ言った。あとから考えると、スクアーロは子供のままでいたいなんて思ってなかったにちがいない。はやく大人になりたい いつもまっすぐで強い心のスクアーロなら、そう考えていたはずだ。ただそのときのわたしは単純でとくべつまぬけだったから、スクアーロにわかってもらえたなんて勘違いをして満足していた。ほんとうにわたしはいつだって能天気で、どうしようもなく 子供だったのだ。


「なあ まひろ、」「俺は、明日イタリアに帰る」



たのしい時間はいつか終わる。それくらい、誰だって知ってるはずなのに。


101014

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