ザンザスとディーノの来訪はなんの前触れもない突然のことだった。ディーノはともかく、ザンザスまでもが。しかしあのアルコバレーノの仕業といわれればなんとなく わかるようなわからないような。俺たちがどれだけ反発しようと、結局9代目とあのアルコバレーノの手の平の上で踊らされているに過ぎないんだろう。腹立たしいがこれが経験値の差である。

にしても、だ。馴染みすぎじゃないだろうか。ディーノにしろザンザスにしろ、ぽやぽやした笑みを浮かべているまひろにしたって。突然イタリアからやってきた男2人、たとえ年が近いガキだろうがもうちょっと警戒したりするものじゃないのか。(自分も同じ?そんなん知るか)
今だって小さい頃のアルバムを引っぱり出してきて、ページをめくっては談笑している。女子みてぇなノリではしゃぐディーノとその隣で鼻でわらうザンザス。う゛お゛ぉい、馬鹿にされてんだろ、怒れよ。覗き込んでみると、7、8歳くらいだろうか、着物を着てわらっているまひろが写っていた。………………わるくねぇ。ぜってぇ言わねぇけど。


「へぇ、まひろもキモノ着るんだな」
「これは七五三だから。着物着たのなんてこのときくらいじゃないかな」
「着物に着られてやがる」
「だってまだ7歳だもん。走り回ってるのむりやり捕まえて着せたんだって お母さんが」


ふと、そのときのまひろを思い浮かべる。きっと今とたいして変わらないにちがいない。あまりにも簡単に想像できて思わず頬がゆるみかけ、あわてて引き締めた。あの2人にだらしない顔を見られるわけにはいかない。(まひろはもういまさらだ)頭のなかで シチゴサン を 七五三 に変換している間にページはめくられ、3人は別の話で盛り上がりだした。くそ、なんでこいつら日本語できるんだよ。会話に追いつこうとするのは諦め、貼ってある写真を眺める。ほとんどはこっちを見てへらへらわらっているものばかりで、ときおり 両親がふざけて撮ったのだろう(おそらくあのやたらフレンドリーな母親だと思われる)、泣きべそかいてるやつもあった。そういえば泣き顔、一度だけ見たことがある。不良にからまれてるこいつを助けたときのことだ。あのとき俺は、こいつが散々あばれた俺にこわくなって泣き出したのかと思った。そんなのは杞憂だったわけだが、こいつと俺の住む世界がちがうってことを改めて認識したのは確かだ。


トントン 肩をつつかれ顔を上げると、ディーノと視線がかちあった。ちょっと と口だけ動かして手まねきする。そっとリビングを出て廊下に出た。すこしだけ肌がひんやりとする。ディーノはパタリとドアを閉めてから頬をぽりぽりと掻いた。口から出たのはイタリア語だ。


「あのな、オレたちのことだけど…明日、帰るから」
「おう、とっとと帰れぇ」


そっけなく返事をすれば、ディーノは歯切れわるく それでさ、その…とくり返す。いいからさっさと話せ。ザンザスとあいつを2人にしておくとろくなことがないのだ。今ごろ変な入れ知恵されてそうで気が気じゃねぇ。俺のイライラを感じとったのか、ディーノの目があっちこっちをさ迷いだす。ハッキリしねぇ野郎だ。


「スクアーロ、ザンザスとオレがどうしてここに来たかわかるか?」
「アルコバレーノに連れてこられたんだろぉ」
「まあそうなんだけど、そういうんじゃなくってさ……オレがついて来たのは、やっぱりオレから言ったほうがいいんじゃないかって思って。余計なお世話だろうけど、ほら、オレはまひろちゃんとお前のことよく知ってるし」
「……なにが言いてぇ」


言いたいことがわからないと眉をひそめる。日の当たらない廊下の冷えた空気が俺の頭を冷静にさせていた。ディーノが続ける。


「さっき言ったオレたちっていうのは、オレとザンザスのことだけじゃなくて、…だから、」
「スクアーロー、ディーノくーん?おやつ食べようよー!」


やけに明るいまひろの声が響く。すぐ行くから待ってろぉ、と声を上げた俺をみつめて、ようやく焦点の定まったディーノが言った。


「スクアーロ、日本語うまくなったな」


その笑みはいつものへらへら笑いじゃなく どこかさみしげなものだったから、俺はなんとなくわかってしまった。

100922

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