「つまらねぇ」と言い出したのはザンザスくんで、「じゃあどこか出かけようぜ!」と提案したのはディーノくん。「どこかってどこだ」眉をよせるスクアーロのとなりでわたしがそろそろと手を挙げた。
動物園なんてひさしぶりだ!とディーノくんが歓声をあげる。ほころんだ顔を見ているとわたしの口元もゆるんでしまう。すてきな笑顔。しかし反対側ではへの字の口がふたつ。
「ここにまた来るとはなぁ…」
「ハッ ガキの遊ぶ場所じゃねぇか」
といいつつザンザスくんの目はせわしなく動いている。もしかして来たことないのかな。ザンザスくんが動物園ではしゃぐようには見えないし。
ザンザスくんからちょっと離れて、スクアーロをひじでつつく。
「また来ようって言ってたでしょ。わすれちゃったの?」
「忘れてねぇ!…ただ、俺はお前とまた……ふたりで………」
ごにょごにょ。トーンダウンしていくスクアーロに 聞こえないよ と訴えれば、スクアーロは聞くなぁ!と怒鳴り返してきた。なんなの、わたしに話してたんじゃないの?
「なあなあ!どこから見るんだ?」
「うーん…いろいろあるから迷うね…」
「近いとこからでいいんじゃねぇかぁ」
「じゃあパンダ!パンダ見ようぜ!」
「ここ上野じゃないからパンダいないよディーノくん」
「えっそうなのか!?でもリボーンがジャッポーネにはパンダがうようよしてるって…」
「アホだろお前」
「まあまあ…レッサーパンダならいるよ」
「ライオン」
ライオンが見てぇ とザンザスくんがくり返す。なんだかキラキラしてる瞳に見つめられて首を振れる人間がいるだろうか。まさにツルのひと声、わたしたちの見学コースは決まったのでした。
「パンダ…」
「いねぇよアホ」
ソフトクリームを食べているこどもを見かけたザンザスくんが自分も食べたいとねだったので、スクアーロとディーノくんは近くのソフトクリーム屋さんへ走っていった。昨日から不思議だったけど、この3人のパワーバランスってどうなってるんだろう。いちばん下にディーノくんがいるのは間違いない。気になるのはスクアーロとザンザスくんのふたりだ。
わたしからすると、スクアーロはステキでムテキな男の子なのである。つよくてかっこよくて、イタリアからたったひとりで日本へ来た。弱音を吐かないしわたしのことをいつも気遣ってくれるやさしさを持っている。そんなスクアーロならイタリアではきっとみんなのリーダーなんだろうなって、そう思ってたのだ。けれどどうやらそれは違うらしい。昨日からのふたりを見ていると、不等号はスクアーロの方に向いているみたい。ザンザスくん>スクアーロ ということ。
ふたりはどういう関係なんだろう。友だち?いや、もっと…
「マヌケ面しやがって」
「え?」
「女がライオンなんか見たってつまんねぇだろ」
「そんなことないよ!わたしライオンだいすきだもん!」
とっさに言い返す。ザンザスくんは驚いたように眉を上げた。
「女のくせに変なやつだな」
「変じゃないよ。女の子だってライオンとかサメとかすきなんだから!」
「……サメ?」
「うん。かわいいよね」
「サメが好きなのか」
「? うん。だいすきだよ」
「ブハッ!!…てめぇ、やっぱりおもしれぇな」
ザンザスくんが大きな笑い声をあげる。あれ、わたしまた変なこと言った?ザンザスくんの笑いのツボはよくわからない。ぽかんと口を開けるしかないわたしとザンザスくんの方へ、ディーノくんとスクアーロが駆け寄ってくるのが見えた。笑ってるザンザスくんを見て どうかしたのか?ってふたりが聞いてきたけど、さっぱりわからないから肩をすくめるしかない。ディーノくんからコーヒー味のソフトクリームを受け取りながら、ザンザスくんがわたしの耳元でささやいた。
「それ、あのカスに言ってみろ」
え?見上げてもザンザスくんはにやにやするばかり。よくわからないままスクアーロに「わたしサメだいすきなんです」と言ってみると、スクアーロは持っていたソフトクリームを見事に落っことした。ああっわたしのイチゴ味!
「ブハッ!傑作だな!」
「なあ、上野ってどこにあるんだ?」
「お前はいい加減だまれぇ!!!」
100917
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