ガリガリ シャープペンの走る音がリビングに響く。英語のワークとたたかってるわたし 漢字ノートをなぞっていくスクアーロ。マグカップの中の氷がカランと音をたてる。つめたいオレンジジュースの入ったマグカップはすこしおかしいけれど、スクアーロがこれで飲みたいっていうからこうなった。ピンク色の方が減りが早いのはわたしの集中力が切れかけている証拠。ガリガリという音がトントンとワークをたたく音に変わっていく。

ピンポーン 間延びしたチャイムが鳴ったのはちょうどそのころだった。
立ち上がるわたしをちらり、スクアーロの視線が手元に戻る。サンダルを引っかけてドアを開けると、そこには男の子がふたり立っていた。太陽のひかりを浴びてキラキラひかる黒い髪、と きんいろのハネっ毛。


「ディーノくん!」
「まひろちゃん、ひさしぶり!」


ニコニコと天使みたいなスマイルで片手をあげたのは、なんとディーノくんだった。ディーノくん イタリアからはるばるやってきたスクアーロの友だちで、前にうちに遊びにきたこともある。隣でジッとこちらを見つめているのは知らない子。見つめているっていうよりにらんでいるというか、見さだめているような 赤い目。ディーノくんと背丈はそんなに変わらないのにぜんぜん雰囲気がちがう。ガン見しあっているわたしたちを見かねてディーノくんが苦笑いした。


「まひろちゃん、こいつはザンザス。スクアーロの……………えーと、知り合い、かな」
「ザンザスくん?は、はじめまして!」
「…………」
「おいザンザス、あんまりにらんだらビビっちゃうだろ」
「あ゛あ゛?」


ザンザスくんというらしい男の子が低い声でうなると、とたんにディーノくんは青くなってヒッと声をあげた。ひと目でわかるパワーバランス。腰が引けてるディーノくんが子ひつじに見えるのはわたしだけじゃないはずだ。


「ところでディーノくん、いつ日本に、
「う゛お゛ぉい!!その声ははねうまか……ぁ…?」


すごい勢いでリビングから飛び出してきたスクアーロの目が、ザンザスくんをとらえた瞬間ぐわっとひらいた。ザンザスくんはチッと舌打ちする。


「ザンザス…!?」
「ハッ 日本語でもうるせぇのはかわらねぇな、カスが」
「な、なんでてめぇがディーノと…」

あぜんとして口をパクパクさせているスクアーロ。そうとう動揺しているみたい。そしてザンザスくん、日本語うまい。つかってる言葉はわるいけど…イタリア人 だよね?


「えーっと…とりあえず、中に入ろう?ふたりともどうぞ」
「そ、そうだな!」


おじゃましますとリビングへ向かうディーノくんに続いて、ザンザスくんも靴をぬぐ。「ハッ せめぇ家だな」……………。






「つまり、ザンザスくんのおじいちゃんがスクアーロのようすを見てくるようにザンザスくんに頼んだんだ?」
「まあそんなところ。ザンザスがひとりじゃ心配だからってオレもついてくことになったんだ」
「ハッ 余計な世話なんだよ」


ザンザスくんににらまれて、ディーノくんは口元が引きつっている。壁によりかかって両足を机にのせるさまはどこかのチンピラみたいだけれど、飲んでいるものはオレンジジュースだからちょっとおもしろい。流暢な日本語はおじいちゃんに教えられたそうだ。とてもそうとは思えない言葉ばかりでてくるけど…


「…納得できねぇぞぉ」
「バカだからな」
「silenzio!お前が俺に会いにきたっていうのが信じられねぇ」
「ハッ 俺だってあのクソジジイのたわごとなんか聞く気はねぇ。アルコバレーノのチビに嵌められただけだ」
「リボーンにむりやりジェット機に乗せられたんだよ…あいつほんと容赦ないんだから…」
「いらねぇ荷物までつけやがって」
「荷物っていうなよ!オレはただまひろちゃんとスクアーロが仲よかったって言っただけで、「「てめぇのせいじゃねぇか!」」ひいぃ!」


「あ、あのー…日本語で話してくれるとうれしいんですが…」


イタリア語でぎゃんぎゃんと言い合っていた3人がぴたりと動きをとめた。スクアーロはぷいと顔をそむけ、そしらぬ顔でオレンジジュースを啜るザンザスくん、ディーノくんはため息ともつかない渇いた笑いをこぼしている。なんていうか こういうのって……


「ケンカするほど仲がいいってやつ?」
「えええええええどのへん!?どのへんが仲よく見えたの!?」

「ブハッ!」


わたしの一言に、ザンザスくんがおもいっきり吹き出した。もちろんオレンジジュースを飲み込んでから。とつぜんわらいだしたザンザスくんにびっくりしていると、こっちを向いて愉快そうに言う。その目はまるでオモチャをみつけたこどものような、ターゲットをみつけたいじめっ子のような。


「てめぇおもしれぇな。気にいったぜ」
「う゛お゛ぉい!!?どういう意味だあ!!」


スクアーロが叫びながら立ち上がる。ばきりと音がして、まっぷたつに折れたわたしのシャープペンがテーブルをころころ転がっていった。



……うん にぎやかになりそう!


100917

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