いろんなひとの視線が突きささるなか、スクアーロとわたしは歩いていた。ぜんぜん気にならないふりをしながら、心のなかは後悔でいっぱいだ。もうすこし人の少ないところを選べばよかった。スクアーロの髪がめだつことを考えるんだった。こんな人がたくさんいるデパートに来たら、注目されるなんてわかりきったことなのに。わたしのばか。ちなみに肝心のスクアーロはあまり気にしてないようだった。慣れてるのかもしれない。でも好奇心でいっぱいの視線にさらされていい気分にはなれないと思うので、次は帽子かなにかを用意しようと心に決めた。


真昼のデパートをスクアーロの手を引いて歩く。今日は日曜日だからなかはずいぶん賑わっていた。何度かはぐれかけて、このままでは迷子になると踏んだわたしの説得でスクアーロはしぶしぶわたしの手をとったのだった。おもい返してみると、わたしがスクアーロをリードした数少ない思い出のひとつである。じぶんより背の高い男の子の手を引くのは新鮮だった。
今日の目的はスクアーロの買い物。こまごまとした日用品をそろえたいらしい。ひとりで来るつもりだったらしいのを、それならわたしが案内すると少々むりやりついてきた。スクアーロならひとりでも買い物くらいできるとおもうけど、せっかくだし、仲よくなれるチャンスだ。…今のところ、まったく会話がないのが現実だけれど。もっとスクアーロが日本語話せるようになってからのほうがよかったかなあ と、これもちょっとした後悔のひとつだったりする。

スクアーロの欲しいものを売ってるお店にわたしが連れていき、会計をすませたらまた次のお店へ向かう。それを何度かくり返すうちに、おしゃれな小物のお店をみつけた。新しくできたところみたいだ。ショーウインドーに並ぶかわいい小物にソワソワしだしたわたしに気づくと、スクアーロは行っていいと目でうながした。やった!




アルパカのぬいぐるみをモフモフしていると、ひとつ向こうの棚でスクアーロがなにかを見つめているのに気がついた。いかにも女の子向けなお店に入るのをいやがって外で待っていたはずのに、どうしたんだろう。ぬいぐるみを置いて寄ってみると、スクアーロの手にはマグカップが握られていた。ファンシーなお店にはめずらしい、ネイビーのシンプルなマグカップ。ひっくり返したりくるくる回しているところをみると、買おうか迷っているみたいだ。買っちゃえばいいのに、ネイビーってスクアーロに似合う。なんとなしに棚に目をやると、同じタイプの色違いが置いてあった。淡いピンク色がかわいい。じいっと観察していたら隣から声がかかった。


「Will you buy it?」


スクアーロだ。買うのかって聞いたみたい。ちょっと迷ってから首を振った。かわいいけど、今月はお財布がだいぶさみしい。スクアーロはすこし眉を持ち上げて、ネイビーのマグカップを棚に戻した。あれ、やめちゃうんだ。似合ってたのにな…。
スクアーロはふらりとほかのコーナーへ行ってしまった。その後ろ姿を見送ってから、わたしはふと棚のマグカップを手にとった。






「なんだか時間かかっちゃったね」


お昼に来たのに、買い物をすませて外に出たらお日さまは西に傾いでいた。スクアーロのうちはわたしとは反対方向だから、今日はここでさよならになる。うん、今しかない。
さげていた紙袋をすっとさしだすと、スクアーロは驚いた顔になった。


「ええと…プレゼント、フォーユー」


帰ってから開けてね、と付け足すと、なぜかスクアーロは眉間にシワをよせた。え 通じなかった?不安になるわたしの目の前にずずいとさしだされた、同じサイズの紙袋。


「やる」


ずっとあとに聞いてみたところ、買い物につき合ってくれたお礼にこっそり買っていたらしい。ふたりとも同じことを考えていたわけだ。ぽかんと立ちつくすわたしにむりやり紙袋を押し付けると、スクアーロは足早に去っていった。




ピンク色のマグカップを買うなんて、スクアーロにはものすごく恥ずかしかったに違いない。わが家の台所の棚にふたつ並んだマグカップをみるたび、わたしはあの日のことを思い出してひとりニヤニヤしている。


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