次の日の放課後、わたしとスクアーロは空港に来ていた。目的はもちろんディーノくんを見送ること。自分の家からそう遠くない空港に行くのは初めてだから胸がどきどきする。たくさん外国人がいて、アナウンスがひっきりなしに流れている。お土産屋さんを通るたびにショーウインドーにべたり張り付いてしまうわたしを、スクアーロが引っぺがしてずるずる引っ張ってゆく。スクアーロは興味ないんだろうか。迷うことなく歩いてゆくところを見ると、もしかしたら日本だけじゃなくてたくさんの国に行ったことがあるのかもしれない。それにしても気になるのはさっきから引っ張られているこのカーディガンだ。伸びちゃう。手、つなげばいいのに。


「おーい、ふたりとも!」


人込みの向こうから高い声が響いて、ぶんぶんこっちに向かって手を振るディーノくんのすがたを見つけた。ディーノくんより一回りおおきいトランクを引きずって、周りのひとの視線が集まるのも気にしてない。スクアーロが呆れたようにイタリア語で何かぼやいた。わたしもおおきく手を振り返しながらディーノくんのもとへ駆け寄る。


「ディーノくん!」
「まひろちゃん、わざわざ来てくれたんだな!スクアーロも」
「……フン」
「時間、まだ平気なの?」


スクアーロにどつかれつつ、ディーノくんがもう少しなんだと答えた。よかった もう少し遅かったら間に合わなくなるところだった。スクアーロが引っ張ってくれたおかげ。トランクの取っ手を握りなおしたディーノくんに笑いかける。


「また日本に遊びにきてね!」
「ああ、がんばってリボーンの目を盗んで来るよ。…あとが怖いけど」
「そのときはディーノくんのマグカップも用意しておくから」


はりきるわたしに、それは遠慮しとくよと首を横に振った。すこしいたずらっぽい表情のディーノくんが、わたしの耳元でささやく。


「オレもおそろいだったら、スクアーロが妬いちゃうだろ?」


え キョトンと目を丸くしたわたしに「スクアーロをよろしくな」というなんとも不思議なことばを残し、ディーノくんはイタリア行きの搭乗口へ歩いていった。スクアーロはじっとわたしの顔を見つめていた。









スクアーロに手を引かれ、夕焼け色に染まった道を引き返す。お土産屋さんに寄るかと聞かれたけど、ショーウインドーに並ぶまか不思議な品々に、わたしはさっきほどの魅力を感じなくなっていた。あたまに響く慣れないジェット機の音や人間味のないアナウンスにすっかり疲れてしまったのだ。いまだにキーンと鳴るあたまを振り払いながら、静まった夕暮れの街を歩く。


「寂しいのかぁ」
「え?」
「あいつが帰って」


尖った、けれどどことなく切なさをおびた声。寂しいのはスクアーロなんじゃないのかな、とおもう。せっかく日本まで来てくれた友だちが、いなくなっちゃったんだから。そう話したら、スクアーロはぐるっと振り返って唐突にチョップを落としてきた。へんなこと言うなと怒鳴られる。あまりの理不尽さに、わたしも眉を上げた。


「さいきんスクアーロ怒りっぽいよ、そういうのよくない」
「…(だれのせいだと)」
「そんなにヤキモチやいてたの?」
「なっヤっ…!!」


スクアーロはぴたりと動きを止め一時停止してしまった。みるみる顔が赤くそまる。夕日よりもっと鮮やか。おもしろいくらい真っ赤になったスクアーロがさすがにかわいそうになって、わたしはもう一度口を開いた。
「大丈夫だよ、わたしディーノくんと仲良くなりたいけど……スクアーロからディーノくんとったりしないから!」

「……………………………は」
「ディーノくんはちゃんとスクアーロの大切な友達だからね!」
「……………おまえ…………」
「ん?」
「馬鹿だろぉ」
「ええっなんで!?」


慰めたつもりだったのに!声を上げるわたしを見下ろして、スクアーロは重々しいため息をついた。


100620
俺がはねうまに妬いてたに決まってんだろぉがあ!

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