「必要ないかもしれないけど一応紹介するよ」


セシル先輩が立ち上がり、両脇に立つローザ先輩とカイン先輩の肩に手を置く。


「彼女はローザ。生徒会会計。こっちがカイン。生徒会副会長だ。そして僕が会長のセシル。3人ともよろしく」


よろしくお願いしますと頭を下げる。カーテンのすき間から差し込む夕日が眩しい。頭の上げ方がまちまちなわたしたちを見てセシル先輩は目を細め、思い出したようにぽんと手を打った。


「あ、そうそう。書記のギルバートは今日は休みだから、またの機会に紹介するね」
「あ?ギルバートって生徒会役員だったのかよ」
「エッジ…知らなかったの?」
「まあ仕方ないだろう。あいつは身体が弱いから休みがちだしな。そのために2年生を増やしたんだ」


カイン先輩が腕を組む。ギルバート先輩は金色の長い髪を持つ人で、カイン先輩の言う通りあまり表に出ることがない。わたしも綺麗な顔立ちでモテるって噂を聞いたくらいだ。リディアとエッジは知り合いらしく、うんうんと頷きあっている。


「顧問の兄さ…ゴルベーザ先生は知ってるよね?忙しくてあまり顔は出せないんだけど、来たときにはちゃんと挨拶するように」
「「はい」」
「はいはーい」
「エッジ、返事は1回。……とりあえずこんなものかな?」
「役割はどうする?」


カイン先輩の問いに、セシル先輩はああと声を上げた。机の中からプリントを2、3枚出して考える仕種をする。


「そうだな…今のところ空いてるポストは総務かな。ギルバートがいないときのために書記ももう1人必要だ」
「あ、セシル。わたし結構早く書くの得意だよ」
「そうかい。じゃあ書記はリディアにお願いするよ」


にこ、と微笑み、セシル先輩が後ろのローザ先輩に目配せし、書記…リディア、とローザ先輩がホワイトボードに書いてゆく。つまりこの流れだと、自然とわたしとエッジが総務ということになる。うわあ、エッジと一緒って…不安要素しかないんですけど。わたしの隣でエッジが手を挙げた。


「俺はリディアと一緒がいい!」
「却下」


却下された。ローザ先輩のきれいな字によって、わたしの名前とエッジの名前が並べられる。セシル先輩に笑顔で「黒板さん、エッジを頼むよ」と言われたら、はいと頷くしかなかった。なんでだろう、セシル先輩には勝てる気がしない…





それから1年の行事予定やら去年の生徒会の活動なんかの冊子をもらい、先輩方から簡単な説明を受けた。あとは習うより慣れろ、ということらしい。


「総務なんてつまんねーよ。雑用係ってことだろ?」
「それも大切な仕事だよ」
「へーへー。それよりリディア、一緒に帰んねぇ?」
「……いいけど。消し子は?」
「わたしはまだいいよ」


わたしの返答にエッジは満足げな顔で親指を立てた。気を回したつもりじゃないんだけどね。リディアはかわいらしい笑顔で手を振り、手を繋ごうとするエッジを軽やかに避けて教室を出ていった。ひとり残されたわたしはふう、と息を吐く。夕日はもう沈みかけていて、辺りは少しずつ夜の暗闇に包まれようとしている。窓から下を覗けば、下校する生徒の群れにエッジたちが見えた。
ずっと、同じ毎日だと思ってた。ごく普通の生徒として3年間過ごすんだろうって。それが今日1日ですごい変貌ぶりだ。生徒会に入って、今まで遠くから見ていただけの人たちと喋って、しかも憧れの人にまで、名前を覚えてもらってしまった。

…うん、頑張ろう。わたしはごく普通の生徒でしかないけど、きっとすごくすごく頑張れば、なにかできること、わたしにしかできないことを見つけられるかもしれないから。



ひとりきりの教室でひとつ深呼吸し、かばんを肩に掛けた。



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