晴れやかな朝だった。開け放たれた窓から入り込む心地好い空気と小鳥のさえずりが、目まぐるしい毎日の中でそっと心を穏やかにさせる。森の新鮮な朝の空気は少々の肌寒さを伴ってはいたが、久々の穏やかなひとときに誰もが浸りきっていて、窓を閉めようと言い出すものはいなかった。名前を呼ばれ、ティナに差し出されたコーヒーカップに口をつける。美味い。煎れたての薫りと温かさが身体に染み渡っていく。煎れるのが上手くなったなと言えば、嬉しそうに頬を緩ませた。洗濯物カゴを抱えたリルムとマッシュが何やら笑いながら戸を開けて入ってくる。マッシュはそのままカイエンへ話し掛け、リルムはやや乱暴にカゴを床に放ると俺たちに目を向けた。大きな瞳がぱちくりとまばたきし、首を傾げる。


「なまえは?」
「そういえば顔を見てないな」
「まだ寝てるんじゃないのか?」
「でも、ベッドにはいなかったわ」


からかうようなマッシュの言葉をセリスが否定し、ティナもこくこくと頷く。なまえは早く起きてくることこそあまりないが、寝坊したことは一度もなかったから、確かにこの時間まで寝ているというのはおかしかった。


「出かけたのかしら」
「この辺はモンスターも少なくないし、彼女一人で出かけるとは思えないなあ」
「うーん…あ、セッツァー、なまえ知らないか?」


扉を開けて入ってきたのは、いつもよりラフな格好のセッツァーだった。シャワーを浴びたらしく、タオルを肩にかけている。セッツァーは普段夜にしかシャワーを浴びないから、珍しいなと頭の隅で思った。コーヒーカップをテーブルに置いて声をかければ、セッツァーは長い髪をがしがしと拭きながらなんてことなく言った。


「あいつならまだ寝てるぞ」


一瞬の静寂。おそらく全員が間抜けな顔をしていただろう。遠くから聞こえるチチチという鳥の鳴き声がやけに滑稽に響いた。リルムはぽかんと口を開け、あのエドガーすら掛ける言葉が見つからないでいるようだった。ティナだけが不思議そうに首を傾ける。


「じゃあなまえはどこに寝ているの?」


誰も答えられなかった。セッツァーは欠伸をしながらどこかへ行った。








「ばか」


それだけ言うと、なまえは再びベッドにもぐり込んでしまった。ベッドの縁に腰掛け、真ん丸いシーツのカタマリを眺める。足元には脱ぎ捨てられたなまえの服。正確には脱がせたのは俺だが。ずいぶん拗ねているようで、白いカタマリはいくら突いてもぴくりともしない。昨日は素直だったくせに、と言いかけて、喉のあたりで飲み込んだ。言えば一日出てこなくなるに違いない。何が、といえかどれが原因だか知らないが、いつまでも引きこもっていたらあいつらも流石に黙っちゃいないだろう。朝の光景を思い出して口許が綻んだ。


「……さっき」
「あ?」
「セリスが来たの」


気を遣われた、セッツァーのばか!とシーツ越しに怒りと羞恥で震えた声。そのときようやく、サイドテーブルに置かれた朝食のトレーに気がついた。セリスが置いていったのだろう。スープから温かい湯気が立ち上っている。なるほど。それで拗ねているわけか。納得し、さてこれからどうしようと考える。この可愛い恋人の機嫌を直すのにどんな言葉をかけてやればよいか、頭を回しているうちに音がした。ぐう、と、なまえの腹の音だ。


「………」
「………」
「腹減ってんだろ」
「…しらない」
「飯、さっさと食わねえと冷めちまうぞ」
「し、しらない」
「俺が食っちまうぞ」
「だめ!」


バッとシーツを放り投げて出てきたのは、素っ裸で顔を真っ赤に染めたなまえだった。堪え切れずに笑う。恨めしげにこっちを睨むのが余計におかしく、声を上げて笑う俺の肩をなまえがぎゃあぎゃあ騒ぎながら叩いた。昼になってようやく起きてきたなまえが、リルムたちにさんざんからかわれるのはもう少し後の話だ。


110529
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