ファルコンは大きく弧を描き、旋回して着陸した。ながいながい旅の終着点はやっぱり乾ききった地面に枯れた木々で、あたり前だけど、ケフカを倒したからってなにもかも元通りになるわけじゃない。すべて終わったわけではなく、これからもわたしたちの前にはたくさんの苦難や哀しみがあって、またべつの、それぞれのたたかいがある。それでも、わたしたちの胸はやりきったという満足感でいっぱいだった。


スキップで看板を降りたわたしにつづいてセッツァーがゆっくりと降りてくる。いつもの黒いコートをばさりと脱いでわたしの肩にかけた。


「上着くらい着ろ、馬鹿」
「だって、はやく降りたかったんだよ」
「わかんねえな、なんだってこんな何もないところに」


そこまで言ってからセッツァーは口をつぐんだ。ああ、と一拍置いてあたりを見回す。


「この辺だったか、お前の村は」
「うん。もうなにもないけど」


くるりと一回転しても視界に入るのは荒れた土地ばかり。前はここにわたしの故郷があった。
世界が崩壊して地形がおおきく変わったから、フィガロに近かったわたしの村もずいぶん遠くになってしまった。位置が変われば気候も変わる。気候にあった作物を育てなければならないし、作物を育てるための土地を耕さなければならない。水を引くために井戸も掘らないと。前のようになれたらいいけど、きっと前のように、なんて考えていたらうまくいかない。


「エドガーが言ってた。人間にできるのは、壊すこととつくることだけなんだって」
「へぇ」
「つくっていかなきゃね」


すごく大変だろうけど、それでも。
ころん、と手近にあった小石を蹴る。ここにはなにもない。なにもなくなってしまった。ケフカを倒したってなにも取り戻すことはできない。だけど、わたしたちが成し遂げたことに意味はあったのだと思いたい。やるべきことを終えたわたしの身体はやけに軽く、なにも持ってないわたしはまるでからっぽだ。
エドガーたちはフィガロに帰った。セリスとロックはひとまずシドさんのお墓参りに行くらしい。ティナは子供たちのところへ。みんな、やるべきことを見つけて歩きだしてる。わたしはどうだろう?ケフカを倒して、それからのことなんて考えたことなかった。世界を救ったら、すべて終わったら考えようって後回しにしてた。でも実際はなにも終わってない。時間は進みつづけていて、エンドロールが流れるような終わりなんてこの世にはない。


「…セッツァーはどうするの?これから」


ちら、と目をやるとセッツァーはおおきく伸びをしたところだった。わたしを見て、目があったところでふいと逸らす。乾いた風が銀色の髪を揺らす。


「酒飲んでだらだら暮らす」
「うわ、だめな大人」
「自由人なんだよ俺は。うらやましいだろ」
「え〜微妙〜」


うるせぇと軽く叩かれた。笑いながらおおげさによろけて尻餅をつく。セッツァーの上着がはらりと落ちる。しまった、砂がついてしまったかもしれない。あわてて手で払っていると、不意に影がさした。あかい空を遮る傷だらけの顔は逆光ではっきり見えない。


「…セッツァー?」
「お前も自由だ。俺と来るか、故郷に帰るか」
「……セッツァーと一緒に飲んだくれるの?」
「意外と楽しいかもしれないぜ」
「そうかなあ」


そういう選択肢もあるってことだよ、とセッツァーは言った。逆光で見えないその表情は、なんとなく笑っているような気がした。そうやってわたしが迷ってると選択肢をくれるところ、好きだよ。言おうかと思って、やっぱりこそばゆいからやめた。口を開く。


「じゃあどっちもがいい」
「欲張りだな」
「セッツァーと一緒に飲んだくれて、わたしの村とか、フィガロとか、ティナやセリスたちのところとか、いろんなところに行く。きっと楽しいよ」
「微妙だな」


「でも悪くない、」セッツァーが伸ばした手につかまる。ぐいと引き寄せられた先に抱きしめられる。いっそう強い風が吹いて、黒いコートがはためいた。


「あっ」
「飛んでっちまったな」
「追いかけないと」
「構わねぇよ。お前のほうがぬくい」
「わたしはコート代わりですか」


終わりなんてこの世にはないけど、はじめることならできる。これからもわたしたちの前にはたくさんの苦難や哀しみがあって、またべつの、それぞれのたたかいがあるけれど、きっと乗り越えてゆける。このひとと一緒なら、きっと。わたしはなにも持ってないけど、セッツァーのコート代わりくらいにはなれるみたいだし。肩越しに見上げた空はもう血のようにあかい空ではなく、夜明けの東空に見えた。
ながい夜が明ける。わたしたちは新しい一歩を踏み出す。
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