わたしの頭はいまかつてないほど混乱している。どうしてこんな状況になったのか誰か100字以内でわかりやすく説明してください。いや、心当たりはあるけれど、でもまさかこうなるなんて。バロン城の一画 質素な部屋が色とりどりの飾りで彩られ、明るく照らされたその中央にはテーブルに並べられたたくさんの料理。ローザさんの手料理だそうだ。たった一人でこの量をつくってしまうなんて、さすがお嫁さんにしたい女性No.1(バロン調べ)。それに比べてわたしときたら。


「すみません、わたし何にも用意してなくて…」
「いいんだよ、君はお客さんなんだから」
「そうよ。それに私もつくり過ぎちゃったもの。今日は気がねなくたくさん食べていってくれるとありがたいわ」


セシルさんとローザさんのありがたいお言葉にもわたしの心は晴れない。そもそもわたしはここに居るべき人間ではないのだ。何度も何度も丁重にお断りしたのに、セシルさんは笑ったまま絶対に引こうとはしなかった。「それが一番のプレゼントになるんだけどなあ」「祝いたいんだろう、ね?」有無を言わせぬ笑顔についに折れたのはわたしだった。


「ほら、お前も言ってやりなよカイン」
「えっセシルさん、ちょ、」
「無理に付き合うことはないぞ。俺のためにわざわざ時間を割くのは申し訳ない」


本日の主役、それも他ならぬカインさんにそう言われて「じゃあそうします」と言える人間がいるだろうか、いやいない。わたしはすごすごと席についた。居心地が悪い。ああやっぱりプレゼントくらい持ってくるべきだった。結局決まらなくて用意できなかったけれど、いくらなんでも手ぶらって…わたし…。
王宮白魔導士のローザさん、赤き翼隊長のセシルさん、そのうえ憧れの竜騎士団長カインさん。
このプレミアム付きスペシャルな面々の中でわたしは明らかに浮いている。それにこの3人は幼なじみの古い付き合い、わたしときたら仕事以外で言葉を交わすことなどない程度。違和感で背中がムズムズする。しかもわたしの席というのがあのカインさんの隣なのだ。ウワアアまずい汗が、全身の血流が倍速に、!図ったような、というかこれは絶対に図られている。椅子に正座してビクビクしているわたしを見るセシルさんがすごくいい笑顔してるもの!心なしかローザさんまで笑ってるもの!


カインさんは、と端整な横顔を盗み見る。おかしいと思わないのだろうか。ろくに付き合いもないわたしが自分の誕生日に招待されていること。疑問を口に出さないだけなのか、他のふたりにいいように納得させられたのか。ワイングラスを手渡してくる自然な様子を見るに後者なような気がしてやまない。なにを吹き込まれたのか…昨日今日のうちにわたしの中でセシルさんの印象がかなり変わった……。


「なまえ、と言ったな」
「は、はいっ!」
「すまない。大方あのふたりに無理矢理連れて来られたんだろう?気を使わなくとも嫌ならいつでも帰っていいからな」
「そ、そんな!!」


テーブルをバン、と叩いて立ち上がる。カインさんが目を丸くしてわたしを見上げた。


「嫌なわけないです!カインさんの大切な日は、わたしにとっても大切な日なんですから!」



シン、と静まり返る空間。立ち上がったわたしに3人分の視線が集まっていた。セシルさんやローザさんすら呆気にとられている。顔がみるみる熱くなるのを感じた。ゆっくりと腰を下ろす。


「お、お誕生日、おめでとうございます…」


あああなに言ってるのわたしイイイ!!あほか!わたしにとっても大切な日ってまるで告白じゃないか!
俯いたまま顔を上げられない。居心地の悪さは本日一番だ。ひたすら丸めたこぶしを睨みつけていると、ふと頭にあたたかいものが乗せられた。見上げれば目を細めて穏やかな笑みを浮かべるカインさん。


「…この歳になって誕生日を祝われるのも恥ずかしいと思っていたが…嬉しいものだな。ありがとう、最高のプレゼントだ」


ぽすぽすと頭をやさしく撫でられる。カインさんの手からつたわる温もりが何十倍になって襲ってきた。耳まで焼けるように熱い。うわあ、わたし、絶対顔真っ赤だよ。だってセシルさんもローザさんも笑ってるもの!こらえてないもの!ヒイイイ恥ずかしい!……でも、カインさんが嬉しいならわたしもうれしい、なんて。とても楽しそうに笑うセシルさんが、ワイングラスを高く掲げた。


「カイン、誕生日おめでとう!」


101020
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