なまえは俺よりずっと年下の女の子だ。俺が熊みたいにでかいのに比べ、なまえはかなり小柄な方。たとえるなら猫やウサギだろうか。身長ならリルムとそんなに変わらないかもしれない。性格はリルムの方が大人びている気もする。だからますます歳の差を感じてしまうんだよなあ。


…歳の差 か。俺は年下で小柄で子供っぽいなまえのことが好きだけど、やっぱり自分より年齢的にもサイズ的にも一回り小さい子を好きになるのはどうなんだろうな。妹として見るならまだしも。禁欲修行の反動がおかしな具合に表れたのかもしれない。


「マッシュ?どうしたの?」


向こうの木の陰からなまえが俺を呼ぶ。しゃがんだまま動かない俺を不審に思ったんだろう。なんでもないぜ! と返事をして、足元に転がっているクルミを拾い上げた。
それにしても今日は大漁だ。この辺はクルミの木が多いって聞いてさっそくなまえとクルミ拾いに来たわけだが、3時間経ってもクルミはごろごろと落ちている。こりゃあ拾いきれないな、もったいないけど。全部拾ったらブラックジャック号がクルミ詰めになっちまう。


「マッシュー、休憩しない?わたしちょっと疲れちゃった」
「そうだな、少し休むか」


ぱたぱたとなまえが走ってくる。大きなポケットからクルミがいくつか転げ落ちた。あわてて拾おうと腰を屈めた拍子にまた落ちる。その辺に溢れるほどあるんだから、わざわざ拾わなくたっていいのに。なまえは律儀に拾い直したクルミをポケットに収めると、今度はゆっくり俺の元へ歩いてきた。木の根元に座った俺の隣にぽすんと腰を下ろし、ふう と一息つく。


「大漁だねぇ」
「そうだなぁ」
「こんなにたくさん、どうしようね」
「まあなんとかなるだろ。ロックあたりがちゃちゃっと調理してくれるさ」
「うわあ、楽しみ!クルミパンに、クルミのマフィンに、クルミ入りパイに…」
「クルミのケーキ、クルミ入りチョコレート、クルミのブラウニーもあるな」


指折り数えていくたび、なまえの目がキラキラ輝く。今にもよだれを垂らしそうだ。俺も垂れそう…。大量のクルミを押し付けられ、苦虫をかみつぶしたようなロックの顔が目に浮かぶ。ロックは女の子に弱いから、なまえの期待に満ちた目を前にしたらきっと断れないに違いない。


「そんなに作るなら、もっともっと拾わないとね!」
「あんまり張り切りすぎるなよ。なまえはすぐ転ぶからな」
「わたしそんなに転ばないよ!」
「どうだか」


なまえが頬を膨らませて俺を見上げてくる。このアングルはけっこう……クるな。いや、変な意味じゃなくて単に男心をくすぐるというか…どっちにしろ変な意味か。ぽんぽんと頭を撫でてやると、なまえはしぶしぶ視線を足元のクルミに戻した。午後の陽射しがなまえのつむじを照らしている。ああ、それにしても今日は暖かいな。思わずあくびが出ちまう。…。……











「マッシュ?…マッシュ?」


急に静かになったと思ったら、わたしの隣に座っていたマッシュが寝息をたてていた。あくびをしたと思ったらもう寝ているなんて、なんて寝つきがいいんだろう。膝に乗せられていた手のひらをさわってみたら思ったより熱かった。こどもみたい。そんなこと言ったらマッシュは「なまえには言われたくない」って怒るんだろうな。わたしはそんなにこどもじゃないのに。マッシュはいつもわたしをこども扱いする。そりゃあ熊みたいなマッシュと比べたら、わたしなんか小熊サイズかもしれないだけど。
立つのが億劫になって、座ったままクルミを拾う。マッシュはクルミが大好きでしかもたくさん食べるから、このくらいではきっと足りない。ナッツイーターに横取りする前に持ち帰らなきゃ。

隣のマッシュはずいぶん心地良さそうに寝ている。いい夢でも見てるのかなぁ。こんなに大好きなクルミに囲まれてるんだし、クルミをお腹いっぱい食べる夢でも見てるのかも。あー、なんかわたしもお腹すいてきた…今日の夕食は何かな……。ポケットにも両手にもクルミはたくさん詰まってるけど、このまま食べれるはずもない。夕暮れが近づいてきたし、お腹なりそうだし、そろそろブラックジャック号に帰ろう。明るいうちに帰らないとロックにお説教されてしまうのだ。


「…マッシュ、起きて。そろそろ戻ろうよ」
「…………ん?なまえ…?」
「マッシュ」
「あれ…なまえ、子供に戻ったのか…?」
「もとからこどもじゃないです。寝ぼけてるの?」


マッシュは肩を揺らすわたしをポカンとした目で見つめて何度かまばたきをした。やっと自分が寝ていたことに気づいたらしい。もう一度帰ろうと言うと、1拍遅れて返事が返ってきた。ふたりして立ち上がる。マッシュは複雑そうな顔をしていた。


「どうしたの?マッシュ」
「いや、夢 見てたんだけどよ…」
「やっぱり。クルミが出てきたんでしょ?気持ち良さそうに寝てたもんね」
「あー…いや、クルミではないんだけど…うん。アレだな、なまえはいつかあんな大人になるんだな」
「だからもう大人だってば」


マッシュはひとりでうんうん頷いている。一体なんだっていうんだ。相変わらずこども扱いだし…
パッと顔を上げると、マッシュは唐突に話し出した。


「なあ、知ってたか?セリスとロックは9つ歳が違うんだぜ」
「そ、そうなの!?」
「それと兄貴は城中の女を老若問わず口説いてる。それこそ10いってない女の子なんかもな」
「へ、へぇ…」
「だからななまえ、歳の差なんて関係ないと思わないか?」
「うーん…なんかそんな気がしてきたかも…」
「そうなんだよ。だから俺は絶対引かないからな」
「えっ?」
「大人のなまえも良かったけど、俺はやっぱり今のままのなまえが好きだよ」
マッシュは真っ白い歯を見せて晴れやかに笑った。うーん、なにか言いくるめられたような気がしないでもないけど、マッシュがふっ切れたような顔になったから別にいいかな。たくさんのクルミを抱えて歩きだすと、数歩いったところでわたしのお腹が威勢よく鳴った。マッシュが笑う。


「こりゃあ早く帰ってメシにしないとな」
「うう…マッシュが寝てたせいなのに…」


悪い悪いと笑いながら謝るマッシュはぜんぜん反省しているようには見えないけど、マッシュを見てたらわたしもなんだか可笑しくなってきた。まあいっか。早く帰らないとロックに怒られちゃう。わたしたちは仲よく手を繋いでファルコン号に戻った。


100529
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