「すまない、プリントを回収したいのだが」


頭上から降ってきた凛とした声に、わたしはハッと顔を上げた。少し困ったような顔で微笑むライトくんの胸に、朝のHRで配られたプリントの束が抱えられている。クラスみんなの分だろう。あわてて机から引っ張り出したプリントは渡されたときのまま何も記入されていなかった。


「…ごめん、あとで自分で出すから」


パタン。読んでいた本を閉じ、ペンケースからシャープペンを取り出す。本に夢中になってしまうことはたびたびあった。そんなときのわたしは周りも見えないほど本の世界にのめり込んでしまうのだ。朝のHRの先生の話だって全然覚えていない。プリントの見出しには今度の体育祭についてのアンケートと書かれていた。1、今年の体育祭で何をやりたいですか。
やりたくないです。そんな選択肢、もちろん無い。体を動かすのは苦手だ。


と、そこでライトくんの影が消えてないことに気づく。彼はプリントの束を抱えたままわたしの手元をじっと見下ろしていた。


「ライトくん、わたしの待ってなくていいよ」
「いや、かまわない」


わたしの言葉をさらりと流して、ライトくんは前の席の椅子に座った。腕を占領していたプリントを机に置くと、わたしの方へ向き直る。
初夏の眩しい光がライトくんを照らしていた。まぶしいな、ライトくんは。いつだって。

ライトくんはわたしのクラスのクラス委員だ。委員は他に2人いるけれど、実質いつも仕事をしているのは彼1人だ。まじめなライトくん。頭もいい。運動も出来る。そういえばあまり喋ったことはなかった。初めてかもしれない。


「ずいぶんと熱心に読んでいたな」


今日は少し暑い。あんなに照らされて、彼は眩しくないのだろうか。あるいは彼自身の放つ光なのかもしれなかった。伸びた銀髪は無造作のようで整っている。睫毛が長い。しなやかな指がわたしの本の表紙をなぞる。


「本が好きなのか?」
「…うん」


「そうだろうな」ライトくんは慈しむように本のページをパラパラとめくった。「大切にしているのがよく分かる」
ハッキリ覚えているわけではないが、学校の図書室で彼を見かけたことがあるような気がする。すると彼も本を読むのか。たしかに、ライトくんは読書する姿が似合いそうだ。素が良いから、何だって似合うには違いないのだろうけれど。
アンケートは最後の問題に差し掛かっていた。あなたはどんな体育祭にしたいですか。 みんなが楽しめるような体育祭。 月並みな答えを書いてシャープペンを置いた。わたしが差し出す前に、プリントはライトくんの手に渡ってしまう。トントンと机でプリントの束を整えるライトくんに話し掛けた。


「ライトくんは本、好き?」


立ち上がった彼は不思議そうにわたしを見下ろし、そして、微笑んだ。
「ああ」そのまま教室の出入り口に向かう。ふと立ち止まって振り返った彼がまた、くすりと笑った。


「みんなが楽しめる、か。いい意見だ。参考にしよう」



100518
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -