ツォンさんがわたしをデートに誘ってきたのが三日前のこと。この前のゴールドソーサーから半月くらいたっただろうか。メールの下の下に書いた文字にあの人が気づいたんじゃないかとわたしは気が気でない。どうしよう、どうしようもないんだけど、「会いたい」なんて乙女チックな文見られてたら恥ずかしすぎる。カンチガイしてるなコイツとか思われてるかもしれない。


「死ねる……」
「ろくでもないことをいうなよ」
「つっツォンさんん!?ぎゃああ!」


不意打ちの声にわたしはおもいっきりのけ反った。突然後ろから声をかけるのやめてほしい。ツォンさんといい、レノといい、いつも気配がないのだ。


「もう少し女性らしい叫び声を上げて欲しいものだな」
「す、すいませんね!ていうか、なんでここに?」
「近くまで来たから寄ってみた。まさか本当に君が立ってるとは思わなかったが」


ちょうどよかった、とツォンさんが口元を緩める。わたしはどきどきする心臓に気づかないふりをする。


「あ、もしかしてお仕事ですか?レノたちもいるんですか?」
「…はぁ…あくまでレノなんだな、気にするのは」「?」
「いや、なんでも。気にするな。残念ながら仕事でもなければレノもいない。私用で出掛けてただけだ」


普段忙しいツォンさんが明るい時間から出かけているのは珍しい。いつもはレノの尻拭いや社長の護衛で胃を痛めるほど走り回っているのに。その貴重な自由時間に、「寄ってみた」だけでも会いに来てくれたことがうれしい。


「で?」
「へ?」
「ちょうど会ったから今聞いておくが…明々後日のことについて。まだ返事もらっていないだろう」
「あ…」


そうだ。メールのことに夢中で返事してなかったんだ。わたしは慌てて何度も頭を縦に振る。


「い、行きます!すごく行きます!」
「日本語がおかしいぞ」


ツォンさんに笑われた、恥ずかしい!でも笑顔見れて死ぬほどうれしい。ツォンさんと関わるうちにわたしは何度命の危機を乗り越えればいいんだろう。


「……はぁ、よかった…」
「?何ですか?」
「いや、なんでも。行きたい所はあるか?」
「行きたいところ……」


ツォンさんと行けるならわたしはどこでもいいんだけど、ここで「どこでもいいです」なんて言ったらノリ悪いと思われるかもしれない。わたしは珍しく頭をフル回転させて、「……ツォンさんの、お気に入りの場所とか、あったら」と言ってみた。


「…私の?それでいいのか?」
「ツォンさんが、す、好きって思うところが知りたいから……」
「……。…………」


口元を押さえて黙ってしまうツォンさん。わたしは熱い頬を必死に冷ましながらなんてことを言ったんだろう!と猛烈に後悔した。
すこしして、ツォンさんが咳ばらいをひとつ。


「…期待に添えるよう努力しよう」
「い、いいんですか?」
「私が聞いたんだからリクエストに応えるさ。それに、私も君に知って欲しいしな」
「え?」
「なんでもない。気にするな」


わたしのあたまをくしゃりと撫でて、ツォンさんはさわやかに笑った。じゃあ、今度。手を振ってさわやかに去ってゆく。わたしは名残惜しさを感じながら、それより大きく手を振った。



春の宝石

100511title@幽繍
捏造主任万歳
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