エドガーからダンスパーティーの知らせが届いたのが一週間前のこと。わたしたちがケフカを倒してから半月後。装飾の凝った白い封筒を受け取ったとき、ああエドガーは王様だったんだっけといまさらのように感心した。だって隣で一緒に闘ったりお酒を飲んだりふざけあったりした仲間が、自分の故郷を統べる国王だなんて。けれど貴族にいいイメージのなかったわたしに、王様だって同じ人間なんだと教えてくれたのはエドガーだった。

そんな彼と離別して、もう一ヶ月近くになる。フィガロの治安もかなり良くなった。エドガーががんばったんだ、きっと。ダンスパーティーなんて開くくらいだから、女の子に声を掛ける暇すらなかったのかもしれない。それなら久しぶりに彼の独特な挨拶を見ることになりそう。ああ、なつかしいな。わたしもしょっちゅう口説かれてたっけ。今ではあんなくだらないやり取りすらキラキラ光る宝石に思えるのだから、まったく時の流れは侮れない。

早く会いたいな。ロックにセリス、ティナ、マッシュ。カイエンにガウにリルムにストラゴス、セッツァー。そして、エドガー。






フィガロ城は久しぶりに賑わっていた。国の復興にはまだ時間がかかるものの、世界を脅かす悪が消えたのだ。ケフカを倒してもすべてが元通りになるわけではない。しかし人々は長い間希望を求めていた。国中の人々にそれを与えるのは国王の義務であると、エドガーは十分に理解していた。だからこそのダンスパーティーなのだ。…たとえそこにエドガー自身の私情が含まれていたとしても、誰も自分を責めはしないだろう。


「……なんてね、言い訳かな」


苦笑するエドガーに向かって、ロックが「エドガー、今なんか言ったかー?」と声を上げる。肩をすくめてみせれば、再び絹のカーテンの前でそわそわし始めた。カーテンの向こう側ではセリスが着替えの途中で、何が心配なのかさっきからロックには落ち着きがない。セリスのドレス姿ならオペラ座で見たじゃないか、と言いたいところだが、おそらく今のロックでは聞く耳持たずだろうなあ。
それよりティナは大丈夫だろうか。あの子はセリスと違ってドレスなんか着たこともないに違いない。1番側に控えていたメイドにティナの着替えを手伝うよう頼んだ。リルムは…まあ大丈夫だろう。しっかりしているし、わからないことがあればメイドに聞くはずだ。セッツァーやマッシュはさっさと着替えを済ませて城を見回りに行った。ロックにもいい加減正装してもらいたいんだが。

………それにしても、彼女はいつまで私を待たせる気なのか。
せっかく私が国を上げて会う機会を作ってやっているというのに(あくまで自分が勝手にやっているということは忘れよう)。ドレスアップした彼女が今にも姿を見せるんじゃあないかと、こっちは気になって仕方がない。そもそも彼女はドレスを持っているのかな。持っていなかったとしたらそれはそれでチャンスだ。ここには彼女に着せたい衣装が山ほどある。

ああ、会いたいなあ。


「…ガー、なあエドガー!聞いてるか?」
「…聞いてるさ。なんだい?」
「ちょっとこっち来いよ」


ニヤニヤが隠しきれていないロックが手招きした。セリスの着替えが終わったようだ。散々待たせられたうえに見せびらかされるとは不愉快極まりないが、まあ綺麗な女性の姿を拝めば多少はこの苛立ちも薄れるだろう。目の前に立ったところで、ロックが一気にカーテンを引いた。


「あ、エドガー」
「…なまえ?」


そこにいたのはなまえだった。鮮やかなイエローのドレスを纏い、紅いルビーのネックレスを首元につけている。明るい装飾と違って淡いピンクに彩られた唇が目を引く。とどのつまり、そこにいるなまえは途方もなく可愛らしかった。
立ち尽くす私の隣で、ニヤニヤがMAXに達したロックが喋りだす。


「いやぁ、セリスが着替え終わったのにエドガーが全然気づかないからさ、こりゃー相当なまえのことが気になってるなってセリスと話してたんだよ。そしたらちょうどなまえが来たんだけど、うっかりドレス破っちゃったって聞いてこっそり着替えさせてたんだ。エドガーを驚かせてやろうと思って。あ、ドレスはセリスが選んだんだぜ。セリス?あいつならさっさと着替えて他のみんなに会いに行ったよ。それにしてもなまえ、よく似合ってるな。お前にはやっぱり明るい色が似合うよ」


どうでもいい悪巧みとなまえのドレス選びとさりげなく私より先になまえを褒めるという重罪を犯したこの男をノコギリで切り刻んでやりたいと心から思った。だが今はそんなこと二の次三の次である。なまえが目の前にいる。いつぶりだろう、変わってないどころか、ますます可愛くなっている。


「エドガー?久しぶりだね。元気だった?」
「………」
「エドガー?どうしたの?」


小首を傾げて私の顔を覗き込む彼女にもう我慢が効かなかった。手首を引いて抱きしめる。腕の中からひゃあと声が上がった。ずっと欲しかったぬくもりを手に入れてしまい、体中が充実感、それを上回る喜びで充たされる。しかし困ったな、これではパーティーの時間までに離せそうにない。
と、小さな手が自分の背中に回されたのに気づいた。思わず頬が緩む。隣でロックが口笛を吹いた。


「ヒュー、お熱いね!」


速やかに立ち去れ。




100515
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