旅の途中。もう日は沈んで、辺りを照らすのは燻った焚火のみ。さっきまでてんやわんや騒いでいたフリオニールやマリア達は、今までの疲れが出たのかテントでぐっすりと眠っている。
焚火に当たっているのはわたしとミンウのふたりだけ。

ああして楽しそうに笑うフリオニール達を見ていると、わたしたちが帝国軍と戦っていることが嘘のようだ。フィンの城が落ちてたくさんの人が死んで、そんな現実が何処か遠い世界の話に思えてならない。わたしたちは少し長いキャンプに来ているだけ。そんなことあるわけがないんだけれど、もし、もしそうだったなら、ミシディアの塔なんか行かなくたっていいんじゃないかと思う。


「ねぇ、ミンウ」


隣で薪を突いていたミンウがわたしの方を見る。ターバンから覗く瞳はもうすぐ命を懸けようとしているようには見えないほど穏やかで、けれど揺るがない鋭さを持っていた。
名前を呼んだものの何と言っていいものかわからないわたしは、視線を目の前の焚火に移して「…なんでもない」とつぶやいた。何なんだって自分でも思う。ただ、今更そんなことを言うのは子供の我が儘な気がして。

ミンウはしばらくわたしの方を見つめてから、やっぱり目の前の焚火を見下ろした。ぱちぱちと小さな火が爆ぜる。
夜はなるべく火を小さくするように教えてくれたのはミンウだった。よく効く薬草、毒を持つモンスター、たくさんのお話。ミンウはわたしたちの知恵であり、あたしをいつも安心させてくれる大切な存在。フリオニールに「お前、ミンウの娘みたいだな」と言われたこともあった。そのすぐ後、ニヤニヤしたマリアに「親子じゃなくて恋人なのよね?」とからかわれた。あのときのフリオニールの顔の赤さといったら、今思い出しても笑ってしまう。


「貴女は面白いな」
「え?」
「沈んだ表情をしていたかと思うと、いつの間にか笑っている」


ミンウにくすくす笑われて、あわてて頬に手を当てる。無意識に思い出し笑いしていたみたいだ。恥ずかしいというか、無性に悔しい。さっきまでミンウのことであんなに暗い気持ちをしていたというのに。


「…ミンウはいつも笑ってるよね」
「そうかな」
「そうだよ」
「君と居るからじゃないか?」


うわ、それ反則。頬を抑えるわたしに微笑むミンウは、なんというか、大人の余裕が滲み出ている。隣のわたしといえば照れ隠しに口を尖らせて文句を言うので精一杯だ。ずるい。


「これから何があっても、そうして笑っていなさい。それだけで皆救われるのだから」


彼らを頼みます、とわたしの髪を長い指で梳く。ミンウはずるい。ほんとうに。これから笑っていられなくなるのなんてわかりきってる。わたしだって、ミンウがいるから笑えるのだ。


「ミンウはずるいね」
「ああ」
「ずるいよ。馬鹿」
「ああ」
「大好き」
「ああ、知ってる」
「…ミンウが死ぬときも笑っててやるんだから」
「最期に君の笑顔が見れるなら、死ぬのも悪くない」
「……馬鹿」


結局わたしたちは反乱軍としてパラメキアと戦っていて、たくさんの人が死んで、傷付いて、わたしを抱きしめるこの人だって居なくなってしまう。それでもわたしは笑っていたいと思う。叶うのならば、誰よりも大切なこの人と。





しあわせなうちに死ぬことができたらいい

(title by 幽繍
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