一人になるのは久しぶりだ。皮肉を込めて笑い歩きだした俺の前に現れた彼女は、ついこの間まで俺の部下だった。優秀な彼女を俺は重宝していたものだった。


「ダークナイト様」


彼女は怒るでもなく、笑うでもなく、ただ静かに俺の名を呼んだ。

「私はもうダークナイトではない」


堅苦しい言葉遣いに戻るのはもはや反射である。彼女は何も返さない。ただ静かに俺を見つめていた。この瞳が嫌いではなかったと、たいそう昔のことように思い出す。


「君の上司は死んだ。帝国も滅んだ。全て終わったのだ」


俯いた顔が終わらせないで下さいと小さく鳴いた。泣いているのかと思えば、その顔は渇いた地面を睨みつけている。
彼女の足元には小さな花が咲いていた。帝国が滅んだ今、それは平和の芽吹きを語りかけていた。いずれこの渇ききった土地は沢山の花で溢れるだろう。かつての親友が好き好んだ野薔薇もそこにあるのだろう。良いことだ。マリアはたいそう喜ぶはずだ。


「わたしはどうすればいいんですか」
「君は君を待つ処へ帰ればいい」
「貴方は何処へ行くのですか」


答えられなかった。故郷を棄て、仲間を棄て、もう俺には何も残っていないのだ。


「ダークナイト様、わたしにはもう帰る場所などありません。だからまた、やり直そうと思うんです」
「…そうか。君なら為せるだろうな」
「だからまず、ここからやり直させて頂けますか」


一歩踏み出した彼女の黒いブーツは、若草を踏むことなく俺に近づいた。


「初めまして。貴方に一目惚れしてしまいました。名前を教えて頂けますか?」



夢の花



「レオンハルトだ。俺も君が好きになってしまった。どうか側に居てくれないか」


微笑んだ彼女に、白いくつを買ってやりたいと思った。


100102夢の花/The Back Horn
ED後。レオンハルトが幸せになれればいい
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