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『(暇だわ〜)』

秋も終わる頃にしては暖かな陽気の金曜日。放課後の教室で黄昏ていた。ファンクラブからの攻撃も無く、嵐の前の様な静けさだけが今日1日漂っていた。攻撃が無いのは良い事なのだがやはり楽しさは無い。平々凡々の無駄な時間だけが過ぎて行くので勿体無い。友達がいないとこんなにも学校がツマラナイ所と化すとは驚かされる事だらけだ。明日は祖父のお得意様の所へ連れて行かれるので、色々と用意をしとかないといけないから致し方ないがお家に帰るとしよう。よっこらしょ と中学生とは思えない掛け声で机から腰を上げ教室を後にした。教室の扉を開けると目の前に野山さんが居た事に驚いた

『の、野山さん…』

「あ、槇火紫さん。良かったまだ教室に居て」

『うん、居たよ。ファンクラブが昨日忠告しに来たから楽しみに待っていたら放課後になっていた』

「あきちゃん、ファンクラブへは来週から仕掛ける様に指示出していたから、月曜日からじゃないかな?」

『何だそうだったんだ…。こんな時間まで残った意味無かったのか』

「…」

『? どうかした?野山さん』

「いや、前々から思っていた事なんだけど…。もしかして槇火紫さん、マゾ?」

『え!?ち、違うよ!!』

「でも、虐められる事を待ってる素振りがあるから、虐められて興奮する癖でもあるのかと…」

『マゾじゃない!マゾじゃない!ただ徹底的に叩き潰すならば相手がやった事の倍になる様な事をした方が相手の心を圧し折れると思っての事だから。私はマゾではない!』

「必死だね」

『そりゃあ、必死になるさ…。クラスの人からそんな風に思われているとなるとねぇ、如何にかして改善しないと』

「…」

『野山さん?』

野山さんの爆弾発言は心臓に悪い。おっとりしている様に見えてはっきり物事を言う彼女は、頭に血がのぼり易い城海真央の良きストッパーである。キレた城海を止められる唯一の女子として、立海に通う女子からは一目置かれている存在だ。しかしはっきり物事を言うので核心を突かれた話なども多くあり、心臓に悪いのだ。変な誤解をされているのでとりあえず誤解を解こうと、必死に話せば彼女は柔らかな微笑みを浮かべた。自分のクラスで普通に話せる女子は貴重な情報源でもあるので、変な誤解だけは解いて置くべしだと思って居る。のは本当の気持ちだ。私の話を聞いていた野山さんがいきなり下を向いてしまった。クラスの人 と言ってしまった事が嫌だったのだろうか…そうなると何と言って誤解を解けばいいのだろうか?赤の他人?いやこれの方が嫌われないか??距離感の取り方が分からなくなったぞ。ワタワタとしていればか細い声が聞こえて来た

「槇火紫さんはさぁ、この世に“魔法”とか本当にあると思う?」

『ま、魔法??何SF小説の話??(私使えます!とかただの厨ニ病患者になるw)』

「違う!現実的にだよ。上田音姫とか槇火紫さん初めて見た瞬間お茶噴き出したでしょ?あれ、上田がブス過ぎてだよね!私あれを可愛い って言っている真央が信じられないの」

『う、うん?』

「でも、“可愛くない”って否定したらどうなるかも私分かっている。だって真央自分が大切にしているモノを侮辱される事が一番嫌いだから…嫌われたくなかったから、今まで言わない様にして来た。だけど幸村くんから振られたって話と昨日の幸村くんの様子を見て私確信したの!だいぶ上田音姫の掛けた魔法が切れ掛かっているんだって!今なら真央やあきちゃんの魔法を解かす事も可能なんじゃないかって!!」

『う、うん…(まさかこれは)』

「だからね、私。私…槇火紫さんと…」

『ストップ!野山さんそれは正しい答えではないよ』

「でも!」

『うん、分かってる。皆の目を覚ますのはちょうどいい頃合いなのかもしれないが、それは正しい答えじゃない』

“魔法”と言うニュアンスを聞いて思った。野山さんは最初から上田音姫がブスだと言う事を知っていた。が彼女が言えずに居たのは彼女の幼馴染で親友の城海真央の存在が一番大きかったのだろう…。城海は野山さんが述べた通り、自分の気に入ったモノが侮辱される事をもっとも嫌う女子だ。城海の事を一番良く知る野山さんだからこそ、言わずにずっと今日まで来たが、私が初めて学校に転校して来た時の昼休み。自動販売機から帰って来た私にクラスの女子が学校一番の美少女の上田音姫が来た事を教えて貰ったあの日。資料で見て本人がどれだけのブスかは分かっていたが資料の写真よりも生で見た上田はヤバかった…そう、私は飲んでいたお茶を噴き出してしまったのだ。まぁ、それが原因でこの状況になりましたけどね!後悔はしてない。彼女は私が上田の魔法に掛かっていないと分かり普通に接触していたと思う。そして何が原因なのかは不明だが、幸村精市が正気になった事で彼女は決意した。友達を元に戻すなら今しかないと、しかしどうやればいいのか具体的に分からない彼女は私と“友達”になる事で知恵を借り様としたのだ。しかし、それは正しい答えでも選択でもない。正しい答えと選択は―――

『私を――――する事だ』





act01.楽観的 終

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