首無=共存共栄= | ナノ



==池袋某裏路地にて==

【ふぅ、危なかった…】

運び屋を行っている彼女・セルティ=ストゥルルソンは重い溜め息を吐いた。白バイに見つかり逃げて来た彼女が再度溜め息を吐けば、自分の前にドシャリと言う擬音が聞え地面に何かが落ちて来た。何が起きたのか分からなかった彼女はとりあえず上を見上げれば、ビルの壁が割れていて、割れた所は人の形をしていた。その壁には大量な血がこびり付いていて血は摩れた様に壁を流れ落ちていた。それに気付きセルティはすぐさま下を向いた。地面に倒れているのはミディアムボブでブラウンの髪の女性。背中に大きな切り傷がありそこから血が流れ落ちて来ていた。

【大丈夫か?!】

『……』

傷口に負担をかけない様に軽く揺するが、女性は何の返事も返ってこない。気を失っている事を確認し、セルティは己の影を使い傷口を押さえ止血を行い。女性をバイクに落ちない様に乗せて、全速力で家へと向かった。

【死なないでくれ…】

『……』

♂♀

「ふぅ…、ひと段落かな?」

薄明かりの部屋の中でコーヒーを飲む男性が1人そう呟いていれば、荒々しくドアを開ける音がして椅子を立った。廊下の方を見ていれば黒いライダースーツを着た女性が急いでリビングの扉を開けた。その様子がいつもと違う事に彼は気付き、扉を開けて彼女を通した。

「遅かったね、セルティ。何かあったの?」

【と、とりあえず。新羅!!この子の手当てをしてやってくれ!!】

「え?また?」

【え?また…?】

血相を変えて入って来た彼女・セルティの肩から白い肌が見え、岸谷新羅は首を傾げた。PADを素早く打ち込んでセルティは新羅に頼み事を伝える。PADを見た新羅は驚きながらも先ほど片付けた治療室にセルティと共に入って行き、事情を聞いた。

「どうしたのその子」

【どう伝えればいいか分からないが…裏路地にあるビルの横壁に彼女が叩きつけられていて、私の目の前に振って来たんだ】

「…」

【どうした、新羅?】

「さっきもね、静雄が血相変えて家に来たんだよ。彼女の様に血塗れで怪我をした男性をね。でも、彼は直ぐに目を覚まして“自分は医者ですから、この位治療は出来ます”って言って治療室の台を使って処置を行ったんだよ」

【それは…】

「彼の傷も、彼女の傷も似ている部分が多い。2人は何か繋がっているのかな?」

【かも、しれないな…。そこは私達が詮索する事ではないと思うが?】

「そうだね」

女性を治療台に乗せると新羅はセルティと話しながら先ほどの事を聞かせた。簡単な言葉をPADで打ち返答をしていれば、手を止めた新羅がニコリと笑って、もう心配要らないよと伝えた。背中の切り傷は綺麗に縫い付けられていた。大量に血が出ていたと思われていたが、あれはどうやら返り血だった様で彼女は其処まで血が流れ出てはいなかった。安心したセルティはそっと彼女をベッドに運び、休ませる事にして新羅と話合う事にした。

【同じ様な怪我の2人か…】

「セルティからしたらどう思う?僕的にまだ何人も居る様な気がするんだよね…」

【それは私も思う。しかし、一番気掛かりなのはパッと大怪我をした者が人通りの少ない裏路地などで見つかる事自体が不自然だ。私の場合は壁に大きな衝撃が当った様な状態だ。こんな都会では難しくないか?】

「……そうだね。静雄が助けた男性も少し人通りがない場所のゴミ捨て場に倒れていたそうだし…」

【…】

「…」

【謎が深まるな】

「そうだね、とりあえず今日はここでゆっくり寝かせてあげよう、目を覚ました時に事情を聞こう。もちろん、話せる範囲のね…」

【そうだな…】

リビングで会話を行う2人は、ようやく平和になって来た池袋にまた悪雲が立ち込め始めている事に気付きながら、それには触れずに話をしていた。暗黙の了解。そんな2人は夜が遅い為、寝る事にした。外はいつの間にか雨が降っていた。