転校生からのSOS


『暑い…。』

“初夏”と呼ばれるにはちょっと気温が高過ぎない?とそんな事を考えている1人の少女槇火紫斬奈は呟いた。一言。タダでさえ、高いビルが立ち並ぶ都会で彼女は1人、道を彷徨っていた。

『て、言うか…。ここ何処?』

そんな彼女の呟きはジリジリとアスファルトを焼く日差しの中に消えて行った。

Act1≫SOS from the transfer student

朝HR中に担任から言われた“転校生が来る”と言うこの言葉。普通だったら浮かれる所だが、皆思っている事が一つあった。“何で今の時期に?”そんな疑問を他の人と同じ様に思いながら、鹿嶋栗太郎は前の席で“人体解剖”などと言うおぞましい本を読む友達・岸谷新羅に話しかけた。

「新羅。」

「何?栗太郎。」

「転校生って何時来るんだろうね…。」

「さぁ、僕は興味もないし、気にならないから分からないよ。」

「そうだよな…、新羅が“ただの”人に興味何て無いのは分かっているけども、だったら、新羅!“首から上がない女の子”だったらどう?」

“首から上”の時点で生きている事自体が可笑しい事なのだが、その言葉を聞いて新羅はくるりと体を椅子事栗太郎の方に向けて、嬉しそうにそれなら興味はあるね!と伝えた。本当に嬉しそうな表情をする新羅の奇天烈な発言は止まる事なく続けられていた。それに対して眉を寄せて軽く溜め息をついた人物が居た為、栗太郎は笑いながら話しかける。

「どうしたの?ドタチン。溜め息何かついて。」

「…その名で呼ぶなって言っていんだろ。栗太郎。臨也を思い出す。」

ピク

「はぁ、ノミ蟲がどうしたって??」

「あ、静雄。おはよう。」

「だから俺、ノミ蟲じゃないって、何度言えばシズちゃんは分かるのかな〜。」

「!?ノミ蟲!!!!!」

ガタと隣で寝ていた平和島静雄は、折原臨也の声で眠りから覚め殴りかかろうとした時。2人の間に座っていた栗太郎の携帯からメロディーが流れ、栗太郎は何の躊躇もなくその電話に出た。

「おひさー。斬奈。どうしたの??」

『クリタロータスケテー。』

「何?ってか、何でそんなに片言なの??」

『とりあえず察して!!!』

「迷子なんでしょ?で、何処に居るの?場所分かる??」

『場所、分からないから、栗太郎に助けを求めてるだよ?』

「いや、逆に言って。助けに行きたいけども。場所が分からないなら俺も、助けにいけないし…。」

『えっとね…、どっかの袋小路って事しか分からない…。』

「?どうしたの?斬奈…っ!」

電話に出れば、片言で話す斬奈が居り。懐かしさが込み上げて来た。とりあえず彼女が“転校生”と言う事は事前に知っていたし、彼女が迷子になり易いのも知っている為、彼女が変わっていない事に安心していた。軽く話しを行っていれば、斬奈の声に混じって数人の男性の下衆な笑い声が聞え、栗太郎は背中に冷や汗を感じ取った。これはヤバイと思い、向こう側に居る斬奈に声を掛けるがもう既に遅かった。電話の向こう側から聞えるやり取りを聞きながら、栗太郎は空いた口が塞がらないまま、席を立った。

「せんせー。」

「何だ、栗太郎。」

「今日って、コレで終了でしたよね?」

「あぁ、一緒にHRもしようと思っていたが??」

「俺、今から迷子の転校生を迎えに行きたいので、帰ってもいいですか??」

「あー……、い、行ってやれ。」

「ありがとうございます。」

「え?栗太郎帰るの??」

「うん。アイツ、迎えに行かないと…。」

「電話の向こう側の女の子??そう言えば、何かチンピラに絡まれていたよね…。今から行ったって変な場面に鉢合わせするだけじゃない??」

「いやー…、俺が行かないと。止められる相手いないからな…。」

「話噛みあってないぞ、栗太郎…。」

「俺が心配しているのはチンピラの方だよ。決して転校生の方ではない。」

「何でだ??普通、女を心配するだろう。」

「そのここにやって来る“転校生”が“一般の普通”と掛け離れている存在って言ったら、お前達はどっちを心配する??」

「「「「??」」」」

「まぁ、とりあえず。着いて来れば話してやるよ。俺の“お友達”をな…。せんせー。さようなら〜。」

「明日は転校生も一緒に来るんだぞ〜。」

「はーい。」

“転校生”を迎えに行く、と言えば先生は顔を引きつらせながら行って来いと言った。先生も彼女の事情は分かっている(そりゃあ、担任だし。自分の生徒になるのだから知ってて当然だろうが)様であの苦笑した顔に鳴ったのだろう。電話の声が聞こえていた4人は、栗太郎が帰る用意を始めたら4人共興味がある様で同じ様に仕度を始めていた。担任は何も言わず、そのまま話しながら教室を出て行く5人を見送りながら、残りの授業を開始した。


(迷子を捜しに…)



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