今日は久しぶりに代官山のカフェで待ち合わせということになった。代官山という街は椿にはとてもハードルが高い。なんというか街全体がおしゃれなオーラをまとっているせいだ。浅草と地元がホームのビビりの椿にこんな場所を待ち合わせに指定したきたのは持田である。遅れてきた持田が「ねえねえ、これ買ったんだ。かわいいでしょ?」とライトグリーンのデジカメを見せつける。持田の私物はモノトーンが多く、こんなに発色が目立つものははじめて見たかもしれない。そして、また「かわいいでしょ」とデジカメ片手に笑った。どうやらかなり気に入ったらしい。まるで我が子を自慢する父親のようだ。どうして、これを選んだかについて尋ねると、「えーと、チーム愛。嘘、インスピレーション」と持田らしいアバウトな解答が返ってきた。実のところ、持田はサッカー以外のことについてはびっくりするほど無頓着なのだ。あまりに私生活に興味を持たなさすぎて、豪華なマンションの自室が無惨にもごみ捨て場状態になっていたほどだ(ちなみに見かねた椿が片付けを勝手でた)。

「そうそう。で、せっかく買ったデジカメだから初撮影は椿君にしたいなって」
「いいですよ。俺でよければ」

さあさあ笑って、と持田は言うが、取材も含めて写真撮影というのはこれまたハードルが高い。しかも、ここはカフェだ。周りのテーブルで女の子たちがスマホでケーキやら自分やらを撮っているのは目に入るが……。女の子はプリクラといい、どうして自分自身を決めポーズつきで撮ることが好きなのだろう。姉はどうだっただろうか。そんな会話をしたことがないので見当もつかないが、姉の陽子はチキンの血筋を受け継がなかったので、案外、同僚と楽しく女の子ライフを満喫しているのかもしれない。この間、悩みに悩みながら椿が繰り出した渾身のピースサインは『修学旅行みたい』という理由で速攻却下されてしまった。

「じゃあさー、こんなのはどう?」

突然、後頭部を持田にひっつかまれた。なにやらやわらかいものが唇に触れた気がする。背後ではシャッター音。

「やった!いいのが撮れたよ、椿君」

持田がデジカメのモニターを見せつけると、そこには堂々とカメラ目線で椿にキスをする彼の姿が映り出されていた。いわゆるキス写である。

「もももも持田さん、なんてことしてんですか!?」

椿が頭を抱えると、「大丈夫。流出はさせないから」と男らしく答えられた。いや、それも気になっていたけど、そもそも真っ昼間からカフェでキス写を撮る男二人組なんて99%ホモだ。残りの1%はおそらく芸人だ。自分たちがホモには間違いないのだが、プロ選手、しかも、ライバルチームのエースとだなんて、本当はゲーノー人の如く、こそこそしてないといけないような気がするのである。

「このデジカメ、短いならムービーも撮れるみたい。これは夜のお楽しみにとっておこう」

うきうきはしゃぐ持田の声が聞こえてきた……。キチガイに刃物、王様にデジカメである。それでも、持田がさっきのキス写を眺めてはやけに嬉しそうにしているので、怒ろうにも怒れなくなってしまった。

「持田さん、とりあえず、二人っきりで撮るのは家の中でお願いします!」


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