「持田さん、何飲みますか?」
椿はあまり使われた形跡のないキッチンからベッドでもぞもぞと転がる持田に呼びかける。
「冷蔵庫にミネラルウォーターあるから、それで」
キャップを軽く外し、寝転んだままの持田に手渡してやると、「ありがと」と呟いて、そのままボトルを飲み干した。
こうして、たまに持田さんの部屋にお邪魔するようになってから、彼の表情が幾分和らぐようになった気がする。前に我慢できず、「持田さんの笑顔は怖いっす」と告げたら、「なんでだろうね?凄く興奮してると、あんな顔になってるらしいけど」と素っ気なく答えられた。
実はあの一連の挙動は「王様が故の孤独がもたらしたもの」だったのではないか、と椿は思う。他人にも自分にも厳しい持田だが、それ故、周りを遠ざけ、心を閉じているようにも見えたからだ。でも、(例え稀だとしても)はにかんだ笑顔を見せてくれるようになった持田のことが椿は好きになっていた。自分が王の孤独を癒せるというなら、従者にだってなろう。心の奥深くで誓った。
「椿君もこっち来て」
持田が椿の手を引くと、背中からベッドにゆるやかに倒れ込んだ。
「椿君の身体、抱き心地いいなあ」
愛おしむように椿の背中にしがみつく持田の表情はこちらからは判らない。でも恐らく、張り詰めたものではないだろう。ただの直感にしか過ぎないが。
持田さんがこうして笑っていられるなら、俺は貴方だけの犬にだってなりますよ。
……だから、笑って。
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