この空は白い。大地までもが白い。雪と氷に閉ざされた北の国だ。
持田はここにフットボールの可能性を賭けにやってきた。
かなぐるものをも捨てて。ぬくもりと愛情に満ちた住まいを捨てて、ここにやってきたのだ。

通りすがらすれ違う人たちは当然、異国の言葉で、やけに親しげに持田に挨拶をする。
フットボーラーは孤独であるべき、とはかつての自分の持論だったのだが、
東京の我が家とは比べ物にならないくらいうらびれた古いアパートの寝所に戻ると、
自分の残してきたものの重さについて、ふと考えてしまうのだ。

「俺はここに何をしにやってきたんだ……。」

逃げるように東京から去ったのは敗者への蔑みから自らを遠ざけたかったわけでもなく、
自らの存在ごと新しい可能性に賭けたかったからだろう?

それでも、この大地の凍てつく寒さは容赦なく、持田を責めたてる。
残してきたぬくもりにけじめをつけられなかったことを追い立てるように問う。

「サモワールでお湯を沸かして、それから、紅茶にブランデーを足して飲もう」

それで少しは身も暖まろう。
持田は幽鬼のようにふらふらとキッチンから紅茶の茶葉を取り出すと枕元のブランデーの傍に置いた。


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