椿君との今日のデートの締めは慎ましやかに自宅ディナーと決め込むことにした。自炊苦手だからデリバリーだけどね。そこそこ美味しいフレンチのお店があるから、そこへ簡単にオーダーして、とっておきのワインで乾杯って算段なわけ。スパークリングで癖もないから、これなら椿君でも呑めるでしょ。あとは酔いに任せて恋だの愛だの二人っきりで語らおうじゃねえの。……そう思っていたのがどうやら甘かったのかもしれない。

「……」
「椿君?」

椿君はぴくりとも動かず、テーブルに突っ伏している。アルコールに弱いのは知ってたけど、まさかここまでとは。ゲームメーカーの目論見は見事に外れたみたいだ。何が起こるかわからないのが試合とは言っても、恋の駆け引きでこりゃないぜ。

「そんなとこで寝てると風邪ひくし、ベッド連れ込むけどいい?」

同意は求めてないつもりだったけれど、突っ伏してる椿君を半ば強引に引っ張り上げたら「ふぁい」と小さく返事が聞こえた。

リビングからベッドルームまでそう距離はないものの、完全に酩酊状態の人間を連れていくのはなかなかひと苦労だ。椿君を肩に抱かせ、つまづかせないようにゆっくり歩いていたら、急に身体のバランスが崩れた。椿君が起きたらしい。が、その様子は散々だ。

「あのれすねぇ、もちらさんが思ってるよか俺ずっとずっともちらさんのことが好きッスよお」

唐突な情緒のかけらもない愛の大告白だが、いつも俺の好きなようにされている椿君なりの意地かと思うとなんだかかわいらしい。

「そんなに俺のこと、好き?」
「あったりまえじゃないれすか!世界れ一番もちらさんを好きなのは俺れすよ」

そのうち、椿君は寄せた肩から首をにゅっと伸ばし、頬擦りを始めた。亀みたいな動きに吹きそうになったが、熱を帯びた頬の感触がむにゅっとしていて凄く気持ちいい。こうして好きにされるのもたまにはいいかと思った。ただ、色気ゼロなのが残念極まりない。

ようやくベッドに二人して倒れこんだ時には頬擦りのされすぎで頬が少し痛かった。椿君はどうにか意識はあるらしく、しきりに「もちらさん」と呂律の回らないままに俺の名前を呼んでいる。その様子は実にかわいらしいのだが、性的に訴えかけてくるものは皆無なのが悲しい。

「椿君、気持ち悪くない?」
「悪いわけないれすよ!きもちいいッス!もちらさんと一緒らし」

この調子ならかわいい悪酔い程度で済みそうだ。そこはとりあえずひと安心。せめてそれなりのムードさえあれば、俺も思うがままに気持ちよくなりたいんだけど、今日のところは我慢だ。泣くな、持田。自分を励ましてみる。

「そうら!もちらさん!チューしましょう!チュー!」

椿君が俺に馬乗りになる。唇をぐいっと突きだしていて、いつもなら爆笑しているところだが、耐える。こうなったらやってやろうじゃねえの。

椿君の突きだした唇を舌でぬるりと舐めて、不意打ちを食らったところにありったけのキスの嵐を送ってやった。椿君はというと、いつの間にか腰が砕けたらしく、俺の上に寝てやがる。

「椿君、君がその気なら続きしよっか」
「……」

返事がない。おかしいなと思ったら、俺の上に覆い被さったまま寝入ってしまったらしい。なんというか椿君らしいというか。まあ、今日は椿君を抱き枕にして大人しく寝るとしますか。続きはシラフの時にでも、ね。


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