暗く密閉された空間に男たちの荒い息遣いが立ちこめる。

――あれから、椿は持田の手に引かれるままに彼の車へと乗りこんだ。それがどういう顛末を迎えるかは理解してのことだ。運転席と助手席を倒した持田は助手席に椿を寝かせ、もう一度、問うた。

「本当にこれでよかったの?」

返事に窮していた椿は唾を飲み込むと、覚悟を決めたように力強く頷いた。

「……いい子だ。悪いようにはしないからさ」

持田の手がすっと伸び、椿のトラックトップをまさぐる。先程まで外を彷徨っていた持田の手はすっかり冷えきっていたが、ランニング明けで汗ばんでいた椿の肌には心地好い。それから舌を、あの熱っぽく淫らな舌を椿の素肌に滑らせた。腹筋から昇り、胸元を刺激されると、つい、「ふあっ」と艶めいた声が漏れた。自らが発した声だとは俄には信じられなかった。舌が触れている間も持田は器用に椿の背中や敏感そうな場所を撫で、くすぐった。なんだか宙に浮かされたような気分になる。性的な接触がこれほど甘美なものであったとは。そして、それをもたらしているのが持田によるものだと意識すると、ますます全身から浮き足立つ。

「……あ、汗掻いてるの嫌じゃなかったですか?」
「それがいいんじゃん。まるでピッチの上の椿君を抱いてる気分になる」

持田の前戯は手慣れていたのか、椿の身体と心を弛緩させるには効果覿面だった。

――これまで、持田さんはどんな人たちとこんなことをしたのだろう。

椿は一瞬頭によぎったその思考を必死で掻き消した。恐らく、持田は詮索を望まない。それにこれは恋や愛の積み重ねの果てに成し得た行為ではない。……ただの交尾だ。

「椿君、後ろははじめてでしょ?ワセリン使ってゆっくり解すから、力は抜いてなるべく楽にして」

言われるがまま、椿は頭の中を空にして、目の前の欲と快に集中した。トレーニングパンツを脱がされると、椿のそれは既に首をもたげていた。やがて、後孔に持田の指が押し入った。ぬるりとした感覚に若干の違和感を覚えつつも、先の持田の助言に極力従った。今、持田の指は椿の窄まりの奥をゆっくりと上下している。持田の長い指が文字通り蹂躙しているのだ。その指先で内側の襞をくすぐられると射精感にも似た高揚が下半身を巡る。

「感じてるんだ。嫌々されるのは俺も萎えちゃうし」

椿の後孔をほどよく掻き回した後、そうっと指を引き抜いた持田は穿いていたジーンズのジッパーに手をかけた。持田のそれも椿以上に強ばっていた。

「椿君さ、コレ咥えられる?」

思わず息を飲む。目の前に突き出されたそれは限界まで硬直していた。女も満足に抱いたことのない椿に持田はそれこそ女のように口淫をしろと促している。だが、何故か不快感はなかった。未経験の行為への不安なら僅かに感じていたが、それより今は好奇心の方が勝っていた。

先端を包みこむように椿は口を広げ、持田のそれを咥える。既にぬめり始めていたそれは椿の唾液と馴染み、馴れない口淫をスムーズにさせた。なるべく舌先を細かく使うようにした。その方が多分気持ちよいだろうから。口淫を続けてる最中、椿はふと持田の顔へ視線を送ると、持田は目を閉じ、感慨に浸ったようななんともいえない表情をしていた。自分の舌で持田が快感を得ていることに椿は少々驚きつつも、手応えを感じた。そして、持田の先端から根元まで丁寧に愛撫した。

「やっべ。椿君、そんなにされたら、俺もう出ちゃうって……」

持田は椿の肩をそっと叩き、口づけをしてやりながら、再び寝転がるように指示した。剥き出しになった持田のそれは彼が発した先走りと椿の唾液とで鈍く光っていた。

「力抜いててね」

椿の脚を両肩に乗せると持田は椿の窄まりを目がけ、己れのそれを突き立てた。挿し入っていくごとに腰の内側から痛みが走る。男の身体がそういうことには向かないつくりのせいか、自身が何も知らない身体だったせいかは椿には判断できなかった。だが、それが慣れてくると徐々にではあるが、快をもたらしてくるのはわかった。

「あ、あっ……、持田さん、いやっ!」

口をついて出た嬌声に驚く暇もなく、持田の挿入は続いた。こんなはしたない声をあげながら、持田に性交を懇願している自分自身にも興奮してしまっている。持田のそれが椿の中の襞を滑るたびに自然といやらしい声をあげてしまうのだ。

「吸いついてくるみたい。すっげえ気持ちいいよ。そろそろイキそう」

躍動が激しくなると、椿は顔から出るものを全部出しながら、より喘ぎ始めた。身体の内側から臨界点を刺激される感じだ。自分でそれを慰める行為とは全く異なる焦燥感と快感。

うっ、と持田がくぐもった声を漏らした後、椿の中に包まれているそれが極端に硬直したのがわかった。ぐっと奥へ押し込まれた時、目から火花が出そうになり、それから、射精した。

暫く放心していた椿が気がつくと、持田はジーンズを直していた。ふと下半身に目をやると、後孔から白濁が零れていた。持田も椿とほぼ同時に達していたのだ。

「まだ動けないでしょ。ゆっくりでいいよ。できないなら始末もしとくから」

まだ動けないと察した持田は椿に吐き出した白濁や唾液を取り出したウェットティッシュで甲斐甲斐しく始末をしてやり、元通りトレーニングパンツを穿かせてやった。

やっとまともに口が利けるようになった椿は開口一番、持田に迫った。

「突然かもしれないけど、お願いがあります。……また、会って下さい。勿論、持田さんの好きなようにしてもらっていいですから」
「そんなに俺に抱かれて嬉しかった?俺は構わないよ」

事を済ませた持田はまた覇気のない姿に戻っていた。これから行為を重ね続けることは持田にとって変化を与えてくれるものなのだろうか。

椿にはまだ何もわからなかった。交歓の余韻を残したまま、椿は窓の外の月を見上げた。


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