「ここは……。」

内装のけばけばしさに圧倒された椿が絶句する。やたらぎらぎら光るネオン。だだっ広いベッド。BGMにはなぜか演歌。見上げれば天井には鏡。謎の小道具の自販機。どうあがいてもホテルである。それもかなりの年代もののラブホテル。

「こんな昭和から取り残された場所、ある意味、国宝だね」

呆けっぱなしの椿を置いて、持田は金ピカのバスタブにお湯を張っている。ベッドのあたりからも丸見えの風呂場は擦りガラスで区切られていて、見ようと思えば、中の光景も丸見えになる。

どうしてこんな状況下になったのか、椿は回らない頭を必死で駆動させ、一から思い起こしてみた。
持田が突然の思いつきで山を観に行きたいと言い出したので、二人でドライブに行った。行ったのはいいが、帰りに道に迷い、運悪くカーナビが故障していた持田の車は真っ暗闇の中をあてもなくぐるぐる回っていた。そんなところに飛び込んできた明かりは派手なネオンで『わくわくピエロ』と飾られていた。「これなんですか?」と椿が尋ねるよりも早く、「もう疲れた!今日はここで寝る!」と持田は『わくわくピエロ』なる建物に車を止めた……、これが事の顛末であった。

それにしても。椿はそう眠気を感じないのだが、長時間の運転に疲れている持田はここで寝るのも全く気にならないらしい。

(こんなところでいびきのひとつもかけそうにないなあ……。落ち着かなさ過ぎるし。持田さんってやっぱり根性座ってるんだなあ)

いつの間にか、持田は風呂を楽しんでいるようだった。「入浴剤がバブしかない!」とご立腹のようであったが。椿はこれからのことを思うとますます頭を抱えた。


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『昭和の文化遺産』
2012/12/25

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