持田は久しぶりにリビングルームに鎮座した60型の液晶テレビのスイッチを入れた。

家電店巡りをしていた最中に思いきって買ったはいいが、実際には大して使われずにいるかわいそうなテレビだ。

画面いっぱいに広がる緑。否が応でもマイクが拾う歓声。いよいよだ。今日の試合はキックオフから観ておきたかったから。

(三雲はスタメンか。ま、そうだろうね。ETUのワンちゃんズはベンチみたいだけれど)

五輪代表予選なんて自分にとっては本来関係ない試合だ。膝のコンディションもそうだが、例え、オーバーエイジ枠での招集がかかったとしても、Vのフロントが首を縦に振らない限りはプレーヤーとしては傍観者でいるしかない。

前半の試合運びは持田から見て、「三雲は献身的。身内贔屓だけど、よくやってる。動きだしは大阪の変な笑いの子が凄くいい。この試合で何か動くとしたら、あの子が起点かもしれない。オランダ帰りの子はプレッシャーに飲まれて、自分のプレーができてるかもあやしい」といったような論調だった。

俺が解説者ならバカみたいに選手の名前喚いてないで、もっと適格なポイント押さえてやるのに。と一人ごちた。

ハーフタイムの間にお気に入りのカフェオレを用意して、ソファーにもたれながら、だらだら試合経過を観るつもりだったが、画面の中でベンチがざわついていたのに持田は注視した。

「そこで出してくるんだ。剛田さん、いいセンスしてるんじゃん」

アナウンサーが手元の資料から名前を探しだし、『椿大介』の名前を読み上げる前に、持田は椿が交代してくることがわかった。今までの特別な付き合いとサッカープレーヤーの勘。

「三雲にはそれとなく言っといたけど、本当にダブルボランチとはねー。ちょっと嫉妬しちゃうじゃん」

そんな軽口を叩きながらも、持田は椿の今までにない真っ直ぐでいて強い目の力に惹かれていた。狩人の顔に近づいたな、と持田は思った。

「あんな顔、今までピッチで見せてくれたことあったっけ。あー、三雲のやつ、帰ったらフルボッコだわ」

大歓声が「ツバキ!」「ツバキ!」と呼び続ける。
さあ、これから、俺にも君しか見えないそのピッチの果てを見せてよ。


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