持田の生家は所謂女郎屋と呼ばれる生業で生計を立てている。この界隈で飯にありつく者なら誰もが知る、古い遊郭である。

一人息子として産まれた持田もやがては家業をつくことになる。女衒として生きていくことに少年の頃の持田にあまり抵抗はなかった。

跡取り息子の彼に女たちは優しかった。彼女たちの中には遠くに置いてきた実の子の姿を思い描いた者も少なからずいただろう。

それを抜きにしても「坊、坊」と可愛がる女たちは強く凛々しく見えた。自らが女性を愛せるか否かはさておき、日々の苦難に愚痴のひとつもこぼさず、勤めを果たす彼女たちを責めることができるとしたら、それは彼女たち自身以外に許されざるものではないと、持田は思い続けながら今日までを生きていた。


――ある日。店先に身請け間もないとおぼしき、少女の姿を見た。着物も薄汚れていて、おそらくは家族を養うために遠くの貧農から売られてきたのだろう。持田よりもかなり年下に見えた。まだ男の身体は勿論、恋も知らないのではないか。

普段は女たちがここにやってくることについて、深く思いを巡らせることはない持田だったが、まだ年端もいかない娘が貧しさのためにその身を売ることになることについては、心を痛めていた。

感情をどれだけ女に寄せたとしてもそれは哀れみにしかならないとはわかっていたが。

「あっ……。旦那様すみませんでした」

物思いに耽っていた持田の胸ぐらの真下に娘の姿があった。娘はつまづいて持田にぶつかったようだった。……いや、よくよく見ると、髪は短く、声も変声期を終えた少年のそれだ。

「どういうことだ」

店の小間使いが持田から少年を引き剥がしにかかる。

「いや、坊。こいつは正真正銘の男ですぜ。ただ、最近はお偉いさんにも好き者が多くてね。特別に身請けしてやったという具合でさ」

なんと。自分とそう年も変わらぬ少年が春を売るというのか。それにあの少年の瞳にうっすらと涙が滲んでいたのがしかと見えた。

少年がすごすごと置き屋の奥に姿を消していく最中、持田は彼の姿から視線を反らすことができなかった。


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