「こんばんは!今夜はお世話になります!」

玄関に息子とその友人を出迎えに来た椿の母は、そのはつらつとした声の主を見るなり、手に持っていた皿を数枚、床に落として割ってしまった。男総出で片づけを手伝っている最中、それとなく椿が尋ねると、息子がプロ入りしてからというもの、サッカー関連のニュースや新聞、スポーツ番組は欠かさずチェックしていたらしい。

母は父のような性格ではなかったのだが、突然の有名人の来客に父と息子のチキンが伝染したようだ。

「えっと、持田くん……、さん?お夕食用意できてますからリビングへいらしてね」
「お義母さん、お気遣いなく。それに僕、魚は詳しくありませんよ。あっはっは」

この場に姉がいなくて本当によかった。姉はチキンの血筋を受け継がなかった人だが、両親が暴走し、今以上にややこしいことになったに違いない。

椿はホウキとチリトリを抱えたまま、ますます頭を抱えた。



リビングのテーブルには母の手料理が所狭しと並べられていた。両親も久しぶりの大勢での食卓に緊張しつつも、心が弾んでいるようだ。

「持田さんのお口に合うかしら……?」
「家庭料理なんて何年ぶりだろう。恥ずかしながら外食ばかりなもので。この卵焼きも僕の母さんの味を思い出しちゃいます。甘くて優しい味がするんです」
「やだ!持田さんったらお上手なんだから!……大介は久々の母さんのごはんに感想は?」
「うん。おいしいよ」
「それだけなの?大介ったら……。持田さんもうちの子になってくれたらいいのに。お箸の使い方も上手だし、品が良くて、大介のお兄ちゃんにぴったりじゃない」

……どうやら、持田は椿の両親の陥落に成功したようだ。さすが、日本が誇るエースだ、と椿は妙に感心した。



「持田さん、お先にお風呂どうぞ」
「えっ。椿君が背中流してくれるんじゃないの?」
「うちはそんなに広いお風呂じゃないッスよ……」
「やだ。椿君が背中流してくれないなら俺シャワーにする」

――こうして、椿はまんまと持田と混浴する羽目になったのだ。家主の溜息も知らず、持田は椿に背中を流してもらえてご満悦だ。

「こういうのって兄弟っぽいよね?どう思う?」
「俺、姉さんに風呂に入れてもらったことないから実感湧かないッス」
「じゃあ、もっと兄弟っぽくしよう。椿君、100まで数えてから湯船から上がるんだよ?いい?」
「……うす」

もう、こうなったら言われるがまま、されるがままだ。椿は熱い湯船で100まで数え終えると、ふらふらになりながらお風呂から上がった。


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