口の端と端を限界まで開ききって、大声で叫んだつもりだった。「持田さん!」と。でも悲しいかな俺の口腔から漏れでたのは、ぷすっと空気が鳴る音だけだった。

――そう、今の俺には何の言葉を発することもできない。

これはチーム間のコミュニケーションをとるのにも大きなハンデだし、何より目の前にいる人に声を伝えることができないというのは、予想以上のダメージだった。

……彼は、持田さんは、声が伝わらないだけでそんなに不安になるものなの?他の手段だってあるじゃん、と全く理に叶ったことを言ってきた。

ただでさえ、想定外の事態で混乱している俺をからかって遊びたいんじゃないか?、と穿った目で見たくもなった。押し潰されそうな心に焦燥と困惑をぶちこんでかき混ぜたみたいだ、今の俺は。

「泣きそうな顔してるよ」

持田さんの腕が俺の背中へとすうっと伸びる。強く力んだ指先が食い込んできたかと思うと、鼻の先には持田さんの見開かれた瞳があった。近い。そして、そのまま肉食獣のように喰らいついてきた。口腔は赤く染められ、絡まった粘膜同士は瞬時に体温を上昇させ、先ほどのまでの悲嘆など一瞬に吹き飛ばしてくれる。

身体は正直だと、我ながら呆れた。思い切って舌を掻き回してやると、ふふっと湿った息が漏れ出る。あとはただ欲に任せて、目の前の快とぶつかり合うだけだ。

「気持ちいいのに声出せないって結構しんどい?」

この人は……。余裕ぶった態度をぐちゃぐちゃにしてやりたい心が首をもたげる。噛みついてやりたい。唇を離すと舌を首筋から這わせ、強引にシャツのボタンを外しつつ、胸元を突いた。何度か目配せを送ると、持田さんが不敵な笑みを浮かべる。

「どーぶつみたいだね。三雲、俺の愛玩犬になってよ」

また、犬か。ライバルチームの指令搭にも犬呼ばわりされていたことを思い出し、自嘲する。あなたまで犬がお好みとはね。なら、お望み通りに犬になってやろうか?

それが欲しかったのだろう?


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