「前々から気になってたんだけど」
持田が連れ合いへ視線をやることもなく、呟く。
「丹波さんって恐竜に似てる。あの、なんだっけ、トリなんとか」
「……トリケラトプス?」
「そう、それ」

久方ぶりのオフをどう過ごそうかと思案を巡らせていたら、持田が寄こした突然のメール。

『丹波さん、今日空いてる?よかったら映画でも観に行こうよ』

連れ出されたのは繁華街とは離れた場所にあるミニシアターで、平日の昼間のせいか、客席は丹波と持田。男二人きり。
スクリーンには持田は勿論、丹波も生まれていない頃に作られたであろう、モノクロの古めかしい恋愛映画が映し出されている。

「持田にしてはカッコいいこと言ってくれるのな」
機嫌良く丹波が答えると、持田は「しては、ってなにそれ。ひでえ」とちらりと丹波を見やった。拗ねたらしい。
仕方ねえな、と丹波は持田のあれこれにイメージを広げる。少し間を空けて、「これならどうよ」と持田に問いかけた。

「サメ。ホオジロザメ。ジョーズ」
「……。なんか、ビミョー」

ますます持田は拗ねたようで、客席の上だというのに膝を抱えて丸くなった。

「カッコいいだろ?サメ」
「うーん。確かにかっこ悪くはないよ。でも、サメってずっと泳いでないと死んじゃうんでしょ。なーんか、ヤな感じ。丹波さん、俺のこと気にかけてくれてるようで、ちゃんと俺のこと見てくれてないね」
「はいはい。すみませんでした。っていうか、俺と持田が会えるのって、たまのオフとダービーぐらいじゃねえ?観察日記でもつけたいぐらいだけど、なかなかそうはいかないぜ。お前ったらメールだってろくにくれないだろ」

殻に篭ったかたつむりのようだった持田が急に首を伸ばして、丹波の顔を覗きこんだ。ニヒーと弧を描いた口元はまるで達海さんみたいだ。つまりは悪だくみ、もしくは限りなくそれに近いもの。

「それってさ、もっと俺に会いたいって意味でオッケー?丹波さんって結構大胆だよねー」
「お前さあ……。そうやって俺から逃げ場をなくすのな」
「今まで逃げたかったの?」
「……そんなことは」

これでは殆ど誘導尋問だ。
スキンシップ的なものってもっと和やかに会話のキャッチボールが行われるべきだろう、と丹波は頭を抱えそうになったが、隣にいる人物はそういう性質を持ち合わせているタイプではないのを今更ながら痛感した。小悪魔だ。小悪魔mochida。


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