※持田さんと椿君がスカイツリーを観に行く話
※東京Vは本拠地・調布市設定。
 持田は生まれも育ちも山の手な設定。



「持田さん」

俺の部屋にやってくるなり、玄関から上がることもせず、いつになく真剣な面持ちで椿君が大きく声をあげた。
ああ、きっと、これは別れたいとかそういうネガティブな話だろうな。ソファーベッドでごろごろ寝転がっているのも彼に失礼なので、すぐさま飛び起きると、玄関で佇んだままの椿君の下へ向かった。

「……椿君、今までムチャさせて悪かったね。挙句、ホモの世界にも引きずりこんじまったし。もう、俺のことは忘れて、かわいい女の子でも見つけて、君は幸せになるべきだよ」
「え、な、何言ってるんですか?持田さん……?もしかして、持田さんは俺との関係が負担だったんですか?」

何言ってるんだ?はこっちの台詞だよ。あんな顔して、玄関で突っ立ったまんまじゃ、深刻な話だって思うじゃん。

「……や、そんな険しい顔してるから、別れの挨拶にでも来たのかと思った」

それを聞いて、慌てて椿君はスニーカーを脱いだ。正しくは、脱ごうとして段差に足を引っかけて、派手にずっこけた。もう、かける言葉すら見つからなかった。

「痛てて……。違うんス。お、お、俺、自分からデートに誘ったことなくて、もし断られたらヘコむなあって」
「行き先と内容によるかもね。野郎二人で浦安の夢の国は目立つし、空しいからちょっとね」
「……持田さんの趣味じゃないかもしれませんけど」

そう言って、椿君はいつものように項垂れた。あまり自分のチョイスに自信がないみたいだ。一体、どこへ行きたいのやら。

「あ、あのですね!スカイツリーに行きませんか?完成したら、入場制限かけちゃうらしいから、今のうちこっそり観に行きましょうよ。ETUの練習場からもよく見えるんですよ」
「なーんだ。スカイツリーなら昼間だったら俺の部屋からでも見えるよ。浅草の方がよく見えるだろうけど」
「……あんまり好きじゃなかったですか?」

相変わらず、椿君はビクビク怯えたように俺の顔色を窺っている。以前ならまだしも未だに俺ビビられてるのかな、ちょっと心外かも。

「スカイツリーいいじゃん。人混みは仕方ないんだけど、入場制限は待つのが好きじゃないから、ちょうどいい。浅草に行く?上野も見えるんだっけ?」
「あ、……俺、浅草しか東京よくわからないんで、浅草でお願いしやす!」

言い終えるが早いか、椿君は深々とお辞儀をした。斜め45度はあったじゃないだろうか。ぶっちゃけ椿君以外にも男女問わずデートのお誘いぐらい何度もされたことがある。が、こんなのは初めてだ。お辞儀でデートを懇願するなんて、弟子入りかっつうの。

まあ、いいや。
椿君と二人っきりで、あの猥雑なまちを歩くのは気に入ってる。チームの本拠地は都内といっても23区外だし、生まれも育ちも世田谷で、あまり城東地区には縁がなかったから。

俺も内心わくわくしている。口にしたら、椿君は笑うかな。一先ず、椿君をリビングに招いて、おでこに軽いキスをしてやると、今日の予定を簡単に決めることにした。


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