*持田さんが単刀直入な発言を連発してるのでR15です。
自己責任でお願いします。



うたた寝の中、柔かな感触が足の腹を何度か撫でていることに椿は気づいた。が、それに気づかないふりをして、狸寝入りを決め込んだ。
そのうち、少し冷えた指先が頬に触れた。椿は堪えきれなくなり、瞼を開かないように「行為」の発端に全身を擦り寄せる。
ふふっ、上から小さく笑う声が降り注ぐ。それはなんだか控えめな天気雨に似ていると椿は思う。

……冷え込み始めてから、夜毎、この「行為」は繰り返されている。爪先から踵まで足のありとあらゆる場所を絡ませる、その「行為」の意図はまだ椿には判りかねたが、決して不快感をもたらすものではない。寧ろ、心地好い。

「起きてるんでしょ?」

耳元で持田が囁く。かさついた彼の声も今の椿には甘い調べのように聞こえる。答えを口にする代わりに持田の素足を撫で返した。彼の足は予想外に柔かく、椿よりほんの一回り大きいか、さして変わらないぐらいだ。選手名鑑できちんと調べたわけではないが、そんなところだろう。

「寝たフリしたってバレバレだよ。椿君って何してもわかりやすすぎ」

持田の両腕が椿の背中で交差する。持田が発した言葉は嘲笑のつもりではないようだ。本人は甘えている心積もりなのだろうが、ある程度、彼と関係を築いていないことには判りにくいことこの上ない。素直な感情など滅多に口にしない人間だから。

「暖房は風邪ひかない程度には入れてるけど、どうしても触りたくなっちゃう」

そして、また、椿の足の腹に自らの足を擦り合わせた。最中、幾度となく軽いキスを寄越された。それは性的な欲求を感じさせず、くすぐられている気分にさせられる。猫のグルーミングみたいだ。

とうとう我慢できなくなった椿が持田の胸元で尋ねた。

「あの、これって、何の意味が」

それを最後まで聞くと、例によって、持田は爆笑した。今まで椿の眠りを極力妨げないようにしていたのが全て無駄になってしまった。

「椿君のお子ちゃま。……そうだね、下手なセックスよりずっとエロいことかな」
「えっ!」
「椿君、勃ってるよ。でも、今日はしない。このままがいい。俺、別に勃ってないし」

持田に指摘された通り、椿は少しだが勃起していた。恥ずかしさのあまり、密着させていた身体から股間だけ逸らす。

「かわいいなー。そりゃ若いんだし、勃つものは勃つでしょ。嫌がる必要ないのに」
「い、嫌がってるわけじゃなくて、あの、その」

持田は椿の背中を抱いていた右手を腰まで下ろすと抱き抱えるように自分の股間に押し当てた。完全にわざとだ。

「……変な気分になるッス。やめて下さいよ」
「言ったじゃん。生半可なエロいことはしないって」

確かに持田はそれ以上椿にセクハラめいたことはしなかった。ただ、足の腹を擦り合わせ、残った左手で背中を時折撫でるだけだった。

愛されているのだとは思う。だが、その行動原理が椿には未だに判らない。思いつきのようにあれこれを始めたかと思いきや、すぐに飽きてしまうし、寝食を共にするようになっても、性的な接触は寧ろ避けたがる。いつか、自分のことも買ってきた高価な家電や洋服たちのように飽きられてしまうのではないか?と不安でならない。

「持田さん、あの……」

持田の目をじっと見つめてみる。彼の大きな瞳に負けないくらい、大きく見開いたつもりだ。溜息ひとつついて、持田は椿の背を何度も撫でてやった。

「椿君さあ、そんな泣きそうな顔して、どういうつもり?折角、君の足は気持ちいいなあっていい気分だったのにさ」
「ち、違うんス!ただ!」
「……ただ?」
「持田さんが離れていくのが怖いんです。前は、持田さんに見られてるだけで怖くて仕方なかったのに、今は持田さんが俺のことを見てくれなくなる日が来るのが怖くて怖くて仕方ないんです」
「それは椿君がやっと俺のことを好きになってくれたってことじゃないの?嬉しいね。前はろくに話もできなかったから」

もう一度、持田は椿を抱く腕に力を込めた。そして、耳元で呟いた。

「未来のことなんか俺にだってわからない。でも、俺はこのままでいたいって思ってるよ、これでも。セックスするばっかりが愛情表現だなんて俺みたいな年寄りにはちょっと感覚が合わない」
「と、年寄りって……」
「湿っぽい話はあんまり好きじゃない。俺にこんな話させた罰として、今夜は足の腹だけじゃ済まさないよ。……椿君って膝くすぐられるの、すっげえ苦手だったよね?」

にやりと企み笑顔を浮かべた持田が椿の腰に当てていた右手をすうっと膝まで下ろした。

「あ、あ、あっ!そこ本当に苦手なんス!や、やめ、やめてくださ、あ、ひゃあああああ!」

――椿の絶叫に近い悲鳴がベッドルームに響き渡る。
この二人は結局のところ、寒く凍える冬をものともせずに歩いていくだろう。遠い未来は見えなくとも、二人の道程の先には雪解けが訪れているはずだ。



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