すると、椿は「電話してもらえたら迎えにだって行きましたよ」と、恥ずかしげに俯いた。

「俺、君の携帯知らないし」
「だからって、あんな無茶して……。あ、もうすぐ、シャワールーム使えるはずなんで、もう少し辛抱してて下さいね。今、誰か使ってるみたいで」
「……シャワーはいい。椿君があっためてよ」

上半身を起こし、椿の身体へと覆いかぶさる。一瞬、瞳に映る困惑と期待の入り混じった色。薄い布地越しから伝わる体温は冷え切った皮膚にじんわりと馴染んでいく。

「あったけえ」

持田が椿の首筋に顔を擦り寄せると、椿の腕が恐る恐る持田の背へと伸びた。そして、包みこむように抱きしめられる。

「……今の持田さんは泣いてる子供みたいだと思います」

はあ?俺が?言うに事欠いて何ほざいてんだよ、ビビリの椿君。
小さな苛立ちが王の自尊心に棘の如く突き刺さった。

「じゃあさ、慰めてよ。このまま、君の身体で」

持田にしてみれば、生半可な気分で同情めいた台詞を寄こされたと感じて、椿のか弱いメンタリティを粉々にしてやるつもりだったのだが、予想は意外なかたちで裏切られた。
まだ、湿り気の残った持田の髪を梳くように撫で、椿は僅かな距離を少しずつ詰めていくようにして、持田の唇に自らの唇を重ねた。あまり慣れていないのだろう。お世辞にも上手なキスとは言い難かった。

ふうん、それなりに見上げた根性は持ち合わせてるんだな。こうなったら、やり場のない欲も憤りも執念めいた執着心もすべてぶつけてやろう。

椿の薄い唇を啄ばみ、舌を絡ませ、感情を言葉にする代わりに行為で答えてやった。次第に椿の身体が火照っていく。拍動は胸元を激しく打ちつけ、一向に鳴り止みそうにない。持田が唇を離した後、椿は息を荒げつつ、持田に縋りついた。

「……お、俺は、ただ、あなたが放っておけなくて。……持田さんが孤独なんだとしたら、俺は少しでもあなたの傍にいたくて」
「マッチアップで震えてばかりの君が俺のこと守ってくれるって言うんだ?」
「今は!俺と持田さん、二人きりです!……それに、俺だって男です!」

そう言って、持田の目をしかと見つめる椿の瞳の色は既に情欲に流されたものではなかった。
――ピッチでふいに見せる、あの強い意志を宿した瞳をしていた。

(椿君、俺が君を認めたつもりでいたのは買い被りじゃなかったってことか)


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