スタジアムに向かう途中、赤と黒のタオルマフラーを首に巻いた子供たちがこちらへ歩いてくるのが見えた。随分と微笑ましいな、と思ったが、今は目的を確実に果たしたい。

「ねえ、君たち、ETUのサポーターだろ?クラブハウスの場所を教えてもらってもいい?」

子供たちは俺が何者だか即座に気づいたらしく、怪訝な表情で互いに耳打ちしあっていたが、そのうちの一人が「少し歩くから連れていってあげるよ」と一歩前に出た。

「……兄ちゃん、ヴィクトリーの持田でしょ。何しにETUのクラブハウスなんか行くの?」
「知り合いに会いに」

子供の好奇心は可愛らしくもあるが、少し面倒でもある。道中、やたらと質問責めにあった。ようやくクラブハウスまで辿り着くと、案内役を買って出た子供が「お礼はいいけど、次のダービーはETUが勝つよ。絶対だよ」と語気を強めた。「手加減しろって意味?それじゃあ応援する方もつまらないでしょ。本気でやり合わなきゃフットボールじゃなくてお遊びじゃん」と答えてやると、「すげー、さすが持田だ」と
何やらテンションが上がった様子だった。

子供らと別れ、クラブハウスを目の前にしながら、俺はただその時を待っていた。濡れた衣服が確実に体温を奪っていく。だが、今ここで待ち続けなければ、邂逅を果たせるのか定かでないと思ったのだ。ブロック塀にもたれかけ、目を閉じた。遠くで雷の鳴る音がする。このまま、誰にも気づかれずに朝を迎えて、トップニュースで『東京V・持田、路上で変死』なんて取り上げられてたら、傑作だな。俺、伝説になれちゃうかもね。そろそろ意識が遠のいてきた。こりゃ、明日のトッカンスポーツの一面は決まりだね。

「……あの、持田さん、ですか?」

薄れかけた意識の奥にやわらかな声が届く。声の主が俺の手を引いた。

「わ!こんなに冷えきって!風邪引いちゃいますって!狭いですけど、俺の部屋まで連れていきますから少し我慢して下さい」

声の主に肩を抱えられながら、どこかへ連れて行かれようとしていたが、生憎そこで完全に記憶が途切れた。


素肌をくすぐられる感覚にうっすらと目を開けると、見覚えのある顔が俺を見下ろしていた。いつの間にか、服は脱がされていて下着一枚だ。まだ、濡れた身体や髪をタオルで丁寧に拭いている。

「……つ、椿君?」
「よかった。気がついたんですね。どうして、あんな土砂降りの中に一人でいたんですか」
「君に会いたかったから」


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