あたたかな視線を感じたような気がして、椿がゆっくりと瞼を開けると、すぐ間近に持田の顔があった。彼の大きく見開いた瞳は椿だけに向けられている。

「……どうしたんすか?」

目を擦りつつ椿が問うと、持田はふふっと少し微笑んで、「椿君観察」と答えた。

「俺、ずっと寝てましたけど」
「ちょっとした仕草眺めたりさ、とにかく椿君は観ていて飽きないから」
「そんなもんすかねえ……」

椿にしてみれば、自分の顔なんてごくごく普通で、持田の方がよっぽど華やかさがあって、見飽きないと思う。

「椿君の隅々を目に焼きつけるんだ。表情も仕草も声も。すべて」
「なんだか気恥ずかしいっす」
「そのまんまの椿君がいいんだ。作り物には興味ないし」

それから、持田は椿の頬と額にちょんちょんと唇を当てた。「印にするんだ」と言って、持田は笑った。

「……印?」
「椿君がどこに行っても俺がいなくなっても、思い出してくれるようにさ」
「海外に行くつもりなんですか?」
「まさか。俺はヴィクトリーで育って、そして、ヴィクトリーですべてを終えるんだ」

話を聞き終えるのも待たずに、椿は手を伸ばし、持田の部屋着の裾を握りしめた。いつになく不安げな表情をしている。

「そんな顔すんなよ。かわいがってたペットを軽々しく捨てちまうような薄情な飼い主じゃないから、俺は」

こつん、と持田が額を椿に当てた。先程つけられた“印”のあたりに。

「俺、ジジイになるまで椿君と一緒にいるんだ。多分、俺の方が先にボケちまうだろうけど、でも、椿君のことだけは絶対に忘れない自信あんの」
「また、そんなこと言って……」

自然と絡み合った視線は互いの意思疎通も促した。ゆっくりと唇と唇が触れ合う。今は情欲は要らなかった。ただ、確かめ合う行為に二人は没頭していた。存在、感情、言葉では言い表せない何か。

長いくちづけの後、持田がぼそりと呟いた。

「俺さ、椿君のことやばいくらい大好きかも」
「大丈夫ですよ、俺もですから」
「えー!なんだよそれ、俺ばっか言わせてズルくね?恥ずかしいったらありゃしねえ」
「持田さん、ゲームメーカーなのに駆け引きは苦手なんですね」
「うわ、何その言い草。傷ついた」

拗ね始めた持田の身体を椿の両腕が包み込む。

「慰めてあげますよ。俺でよければ」
「……じゃあさ、俺が寝つくまでキスしてよ」
「うす」

どうやら、今の主導権はすっかり椿に握られてしまったようだ。恋愛のれの字も知らなかったような男がよくもまあ、と思いつつも、たまにはこういうのも悪くはないな、と持田はくちづけを楽しむことにした。


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