「おっし、今日はこれで解散すっぞー」

各自練習に励んでいたピッチ上の面々に達海監督の声が響く。
軽い雑談をしながら、シャワールームに向かおうとクラブハウスへ足を向けたその時。
遠くのフェンス越しからフードを深く被った男が椿の方へと手招きする。

(スカルズにあんな人いたっけ?いや、もしかして……)

伝う汗もそのままにフェンスへ駆け寄ると、男は「やあ」と椿に声をかけた。

「持田さんっ!?」
「そんなに驚かなくてもいいじゃん」

持田がフードを下ろし、鋭い眼差しを陽に晒すと、「あれ持田じゃね?」とグラウンドに残っていた面々もざわつき始める。
二人を見かねたのか、興味本位なのか、達海もゆっくりと二人の方へ足を運ぶ。

「わざわざ何の用件?敵情視察には見えねえけど」

鼻の頭をかりかり掻きながら、あまりやる気なさそうに達海が尋ねると、持田は眼光をより鋭くして、にやりと笑った。

「椿君を攫いに来たの」

冗談じゃない。こんな怖い人とピッチの上ならまだしも、プライベートで二人で過ごせというのか。

「待って下さいよ。また、なんで俺なんすか?」

焦る椿に持田はふふんと鼻を鳴らす。

「俺、椿君のこと好きだもん」
「……だもん、って」

最早、どう反応していいのかわからなくなって、がっくり肩を落とした椿の頭をぱしっと達海が叩く。

「攫われてこいよ。いい機会だし。な、持田」
「監督、酷いっすよ。他人事だと思って……」
「じゃあ、達海さんの許可も出たことだし、俺待ってるから、早くシャワー浴びてきなよ。ちゃんと大事なところまで洗ってきなよ」
「……」

返事をする気力さえなかった。それにシャワー云々って持田さんは一体何を考えてるんだ。
まさか、好きだってそういう意味での「好き」なのか。

「楽しんでこいよー」とぶんぶん手を振って、見送る達海に椿は盛大に溜め息をついた。


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