左手をすっ、と差し出してはまた引っ込める。
先程から椿はそんな動作を繰り返していた。その隣を歩く持田は素知らぬ振りをしていたが、だんだん椿の一連の行動がおかしくなって、ついには我慢できずに吹き出してしまった。

「ねえねえ、なんなの?それ」

持田の一言に挙動不審気味だった椿がますます慌てだす。

「え……、あ、その……」
「俺、はっきりしない子嫌い」

要領を得ない答えで逃亡を図ろうとした椿を持田が突き放すと、暫くうんうん唸った後、観念したかのように告白した。

「……手、繋ぎたかったんす」

なんだそりゃ、付き合いたての中学生だっていまどきそんな風に真っ赤になって照れたりしないだろうよ。つい、からかいたくなる性分を堪えて、持田はふふっと軽く微笑んだ。

「椿君、ほら」

持田の右手が差し出される。椿は持田を頭のてっぺんから爪先まで眺め回すと、おずおずと左手を伸ばした。始めに人差し指が触れた。持田が椿の手の甲を撫でると、椿はゆっくりと指と指とを絡ませる。「やけに柔らかい手してんな」と持田は思い、「持田さんの手ってこんなにごつごつしてたっけ」と椿は思っていた。二人は手を繋いだまま、何を話すというわけでもなく、ただ、その場に立ちつくしていた。今は繋がれた手と手から伝わる体温の方が饒舌だったのかもしれない。その光景は人々が行き交う雑踏から切り離されたようにも見受けられた。

「まだ、手繋いだことなかったなあって」

どこか遠くに向けて、椿が呟く。視線は足元を彷徨っている。余程恥ずかしかったのだろうか。まあ、大の男相手で、おまけにこいつの性格からしたら、無理もないかな、と持田は言葉を返す代わりに身体を擦り寄せてやった。

「俺の手、冷たいだろ。冷え症みたいでさ」
「はい。でも、ひんやりしてて気持ちいいっす」
「気持ちいいって。椿君、真っ昼間からエロいよ」
「持田さんこそ、すぐそういう連想して、やらしいです」

立ちつくしたままの二人に木枯らしが通り過ぎていった。

「だいぶ冷え込んできましたね」
「ああ、もう冬がすぐそこに来てる」

そろそろ、暖かい部屋でくつろぐとしますか。持田が椿の左手をぎゅうっと握り締めると、椿ははにかみながらうなづいた。


[*BACK]
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -