見せたいものがある、と持田さんに呼び出され、俺は都心にある彼のマンションへと急いだ。また何か企んでいるのだろうか、それとも――。

手渡されたカードキーでオートロックを通り抜け、エレベーターから吐き出され、分厚いドアを開くと、そこはまるで鬱蒼としたジャングルだった。フローリングにところ狭しと並べられた南方の植物たち。

「ようこそ、楽園へ」

奥からのっそりと現れた持田さんは言うなれば、森の主か。得意げな表情で俺を見遣る。

「どうしたんすか、これ」
「マイナスイオンを浴びたくなったから、適当に運んできてもらった」

はぐらかすように持田さんは言う。尋常ではない鉢植えの数。これを買うだけでも、かなりの金額を費やしただろう。まあ、このひとはあまり金銭に執着していないようだから、こんなことにお金を使うのも、とりたてておかしいことではないのかもしれない。

「チーム愛があるって方じゃないけど、緑色は好きなんだ。見ていて落ち着くじゃん」

そう言って、持田さんは鉢植えに囲まれたソファーベッドに向かって、ダイブした。それから、人差し指をちょいちょいとやって、『こっちへこい』と合図する。俺は花に誘われた羽虫のように、彼に吸い寄せられる。

背中を彼の手が何度も滑っていく。シャツ越しのそれは唇を欲しがってる無言の訴えでもある。俺は額と額をこつんと合わせ、彼の瞳の奥にある欲の色を確かめてから、唇に触れた。持田さんの口元が弧を描く。そして、俺の指を根元まで飲み込んだ。指の感覚がより鋭くなるのがわかる。彼の温度や湿度を知ろうと、身体中の神経が指先に集中していくようだ。絡みついた舌は今度は俺の舌を欲しがった。じらすように唇を撫でた後、喰らい込むように俺の中に押し入る。持田さんはいつも俺を試すようなくちづけをする。悪くない。試されれば試されるほど、自分の中で蘇る言葉。

『――ジャイアントキリング』

それは恋愛にもいえるんじゃないか、と俺は思ってる。唇に夢中になってるうちに持田さんの手は背中を通り過ぎて、下腹部をいやらしく摘んでいた。ちょっとした触れ合いだけで、俺の欲望そのものは簡単に次を欲しがる。すっかりこの人の指に慣らされてしまった。持田さんは膨れ上がったものをまじまじと見つめると、片手でジーンズのボタンを外し、もう一方の手でシャツをたくし上げた。色事でも王様は好きなように振る舞う。それでこそ、“王様”だと思う俺は単純なのかもしれない。でも、今は彼の腕やそれ以上が欲しくてたまらない。唇を離れた舌が俺の胸を這う。指は剥き出しの欲望を擦る。泣き出したいような、叫び出したいような、高揚が俺の意識を乱す。

「椿は敏感だから、襲いがいがある」

吐息を上げ始めた俺を見て、持田さんが捕食者の笑みを浮かべる。気がついたら、胸元の二つの尖りも下腹部の欲望もぴんと張り詰めていた。

「俺、もう限界だわ」

身体を起こした持田さんが隆々とそそり立った欲望を外気に晒した。俺が零していた欲の汁を掬うと、窄まりに塗りたくった。ぐちゅぐちゅと卑猥な音が緑に包まれた部屋に響く。そのうち、彼の節くれだった指が忍び込む。指は俺の感じやすい場所を覚えていて、そこを刺激される度に上擦った声を発してしまう。

「あ、……やあ、もち、ださ……」

持田さんが視線を投げる。ぼんやりとしつつ、俺も視線を送ると、無言のままでも感情は絡み合う。今がその時だ。持田さんの欲望が小さく閉じた窄まりをこじ開ける。苦痛が快感に変わるまでにそう時間はかからなかった。

「あ、ああ、そこっ、すき……!」
「椿の大好きなとこだよな。俺、みんな覚えたよ。ここもそこも全部」

最初は同性に抱かれるなんて、恐怖以外の何物でもなかった。だが、今はどうだ。持田さんに言われるより先に腰を振って、より深い快感を求めている。

「は、……相変わらず椿ン中きついな。もうイっちまいそう」

溜息ひとつ漏らした持田さんが俺の肩を引き寄せると、繋がったまま、向かい合う恰好になった。そして、腰を激しく揺さ振られる。多分、だらしない表情を浮かべているだろうから、持田さんに見られるのが恥ずかしい。けれど、挿入に刺激されて、俺はひたすら“あ行”の声を上げる。少しして、中の持田さんの欲がより硬直を極めたかと思うと、あっという間に弾けた。ゆっくりと中を持田さんの欲が行き来すると、粘着音がいやらしく響き、白濁がとろりと滴り落ちた。

「青姦は趣味じゃねえけど、こういうシチュエーションは燃える。野生に還る感じがしない?」
「……なんか、不思議っす。持田さんの部屋なのに、木々に囲まれて、それで抱き合って」

セックスの直後で、息も絶え絶えの俺は答えを返すのがやっとだった。持田さんはタフだ。爆弾を抱えているとは思えないぐらいに。

「今日はこのまま寝ようぜ。俺はジャングルに潜む虎。椿君は……オランウータン?」
「ちょ!なんですか、それ」
「えー、オランウータンって頭いいんだぜ。それに何気にかわいいじゃん」
「持田さんばっかりかっこよさげなのが納得いきません」
「じゃあ、アイアイにしよう。どう見てもかわいいだろ?」
「……」

都心のジャングルが闇に包まれる。俺は虎の懐に擦り寄って、見たことのない密林に思いを馳せながら、眠りに堕ちた。


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