※Twitter診断より。
モチバキさんは「夜の神社」で登場人物が「密会する」、「魚」という単語を使ったお話を考えて下さい。
http://shindanmaker.com/28927
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真夜中の浅草寺は昼間の賑わいと打って変わり、仲見世通りも静まり返っていた。
あまりメールを送らない持田さんから届いた一通のシンプルすぎるメール。
『午前3時、浅草寺にて』
少し仮眠を取って、寮長に見つからないようにこっそり寮を出て来た。夜の街の空気は夜のグラウンドのそれとは違っていて、ほんのりと生暖かい。
「よ!お待たせ」
土産物屋の陰からひょっこり持田さんが顔を覗かせた。
「もう。出て来るの苦労したんですよ」
「悪い悪い。急に椿君の顔見たくなっちゃってさ。深夜の逢い引きもいいかな、なんて」
そう言って、持田さんは俺の肩を軽く叩いて、そのまま、手を俺の手に絡ませる。
「浅草寺なんて、小学校の遠足以来かもしんね。揚げ団子がすげえ旨いの」
「そうなんですか。俺、一応、近所住まいなのに何にも知らないんですよ」
「じゃあ、今度は昼間に行くかなあ。あ、でも地元サポがうるさいかな?ETUサポってあんまり喧しいイメージないけど、どうなんだろ」
持田さんは饒舌にあれこれを語っている。俺は『逢い引き』の一言になんだかすっかりいい気分になってしまっていて、時折「ウス」と相槌を返すしかできなかった。
真夜中の人っ子一人いないはずの仲見世通りを練り歩く俺達はまるで深海の魚のようだ。夜の闇と深海の闇。見たことはないけれど、それらはきっと似ていると思う。
「厄落とし、厄落としっと。ああ、でも縁結びの神様もよかったかなあ」
普段は厄祓いの煙が立ち込めている境内も今は生暖かい風が吹くだけだ。俺は持田さんの右足のことをお祈りした。他人の厄祓いも神様は聞いてくれるだろうか。いや、もう俺と持田さんは心の深いところで繋がっていて、ただの他人じゃないから、きっと神様も大目に見てくれるだろう。
「二人っきりの夜の街っていいよな。海の底にいるみたいだ」
「俺も同じこと考えてました」
ほら、神様見ていますか。決してツーカーとは言い難いけど、俺と持田さんは確かに繋がっています。だから、俺の願いも叶えて下さい。
俺の返事を聞いて、持田さんは緩やかに口角を上げて、絡ませた手を強く握り締めた。
「そんなこと言われるとキスしたくなっちゃうじゃん」
「お寺はさすがに不謹慎だから止しましょうよ」
「それ以外ならいいんだ?」
俺は言葉にする代わりに、持田さんの手を強く握り返した。絡んだ指先から痺れていきそうな感覚。今、ここは二人だけの宇宙だ。
「じゃあ」と俺達は踵を返し、境内を後にした。それから、仲見世通りを抜け、路地裏に入った時、持田さんが俺の背を抱いた。
「うー、椿君の身体温けえ。このまま、抱き枕にしてえ」
少しの間の抱擁の後、俺達はキスをした。慈しむような柔らかな口づけだった。
「今から俺んち行くの、……ダメ?」
「どうせ無断外泊で寮長に怒られるのは確実ですから、大丈夫です」
「ホント、ごめん。でも、今すっげえ椿君を抱きたい気分なの。やましい意味抜きでさ」
「……そっちの意味でも俺は構いませんよ、寧ろ」
言いかけた唇を持田さんの唇が邪魔をした。ふと、視線が合うと持田さんが目を細めた。
「それじゃ、朝になるまで椿のあちこちを撫で回す!」
「撫でるだけなんですか?」
「俺が我慢できたらね。今は愛犬を可愛がりたい気分だから」
俺達はもう一度、指を強く絡ませて、唇を寄せた。生暖かい風が顔を撫でた。
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神社じゃなくてお寺にしちゃいました。
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