「つまんねえの。はあ、つまんねえ」

大事なことだから二回言う。今日はオフだ。俺の現在の人生において、最も退屈で無意味な日。誰ともボールを触れないし、シロさんにも逢えない。何もすることがない。俺の宇宙はサッカーとシロさんで構成されてる。でも、シロさんに連絡を取ることはしない。縋りついてくる女って湿っぽくてうざったいじゃん。だから、俺は何もしない。シロさんがオフに女と逢ってようが、それはシロさんの自由だ。第一、俺にシロさんを束縛する権利なんてないし。いじらしい自分に浸るぐらいのことしか許されないのだ。こういうのを自己憐憫って言うんだっけ?忘れた。要は俺が女々しい男だというだけの話。

(……三雲でも捕まえてみっかなあ)

機能性はさておき、デザインが気に入って買ったiPhoneを手に取ったが、五秒で放り投げた。やっぱいい。今日は誰とも会いたくない。日本代表のエースのオフが引き篭りなんて、番記者が知ったらどんな顔するかな。想像したら、少しウケた。

1LDKの殺風景な部屋で、一人で憧れの人を想う。重い関係は嫌だ。うざったいのも嫌だけれど、逆にそう思われるのも嫌だ。俺の頭ン中だけで完結させたい。その方が楽だ。お互いにとっても。

さっき放り投げたiPhoneが着信を知らせる。どこのどいつだ。俺の感傷的な気分を邪魔しやがって。掌の中の小さなディスプレイには『城西さん』の文字。心臓を射抜かれたかと思った。けれど、俺はもう一度iPhoneを投げた。デフォルトの着信音は一分程鳴って、止んだ。

逢いたくなかった。俺の中のシロさんの存在が膨らみすぎてしまったからだ。チームメイト、先輩と後輩。その壁を乗り越えるのを俺は恐れている。ビビりのETUの7番を笑えない、今の俺は。

(好きです。好きすぎて、俺、どうにかなりそうなぐらい、シロさんが好き)

もごもごと呟いてみた。やっぱり重てえな。きっと俺はこれからも告げることはしない。ただ、シロさんがなるべく近くにいてくれるなら、それでいい。

(……だから、頼むぜ)

俺は右足をそっと撫でた。


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