椿大介とのはじめてのセックスはなんというか、付きっきりの家庭教師みたいなもんだった。何もわからない教え子に懇切丁寧に自らの知識を叩きこんだ。おかげさまで今はまあなんとかごく当たり前にヤレることはヤレてると持田は思う。

「椿君、腰使い上手くなったじゃん」

汗と白濁に塗れた椿が倒れ込んでいる傍らで、持田が発泡水のミネラルウォーターをごくりと飲み干す。

「……そんな、やらしいこと、言わない……で」

行為の直後で、スタミナに自信があるはずの椿とはいえ、息も絶え絶えだ。呂律も回っていない。だが、それがいい。

「勝手に椿がやらしくなったんじゃん」

そう言って、口に含んだミネラルウォーターを椿に飲ませてやる。そして、舌で椿の中をぐるりと舐めてやった。熱い舌が絡み合う中でぴりぴりと弾ける冷水が染み渡る。その絶妙な温度差。

「ね。もし、俺がサッカー辞めたら椿君養ってよ。ヒモになる」
「……そんなこと、言わないで下さい。俺からは無理しないでってしか言えないですけど」

椿は感じていた。最近の持田との行為がやけに刹那的なものになっていると。確かにその日は近いのかもしれない。だが、持田の口から(茶化しているとはいえ)悲観的な台詞がこぼれ落ちると、不安を通り越した絶望で胸が締めつけられる。持田はそう簡単に自分の中の闇を見せない。だから、行為で表現していた。それなのに。

(――持田さんが抱えた爆弾、あとちょっとだけでいい。鎮まれ!)


「持田さん……、も一回」
「今日は珍しいね。椿君からせがむなんて」

椿は持田の下腹部にまさに猟犬のように喰らいついた。まだ、僅かに白濁の味が残っていた。舌を筋から傘に滑らせ続けると、持田のそれは簡単に硬直を取り戻す。

「やっぱ、椿君、こっちの才能もあるね」

息を上げながら、持田が笑う。「こんな身体にしたのはあなたでしょう」と言ってやる代わりに、椿は小さく歯をたてた。痛まない程度に。優しい反抗のつもりだった。


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