椿大介は穏やかな眠りに就いていた。身体を包む、春の陽射しのような温もり。この時がずっと続けばいいのにな。夢と現を行ったり来たりしながら、ぼんやりと思う。上等なシーツは肌触りも心地好く、背中から伸ばされた腕は力強い。
(……って、腕?)
一気に覚醒した椿はベッドに横たわる彼の姿を見つけ、頭を抱えた。よく見れば、二人とも上半身は裸。下半身も下着しか身につけていない。
「あの、持田さん……?」
おそるおそる声をかけると、持田はもぞもぞと身体を丸めながら、「ふわあ」と小さく欠伸をした。
「……椿?俺、低血圧なんだよね。もうちょい寝かせて」
「……なんで、俺たちこんな格好で寝てんですか」
ようやく、持田も目を擦りながら身を起こす。
「昨日、シロさんと俺と君で飲みに行ったら、椿君たらカシスオレンジ三杯で撃沈しちゃったんだよね。だから、連れて来た」
「それはすみませんでした……。でもなんで裸……」
こいつ何も覚えてないのかよ?、と言った素振りで、持田はひとつ溜息を漏らした。
「俺のは習慣だけど、椿君は吐いちまったから脱がせた。大変だったんだぜ。……だから、も少し寝かせろよ」
覆いかぶさるように持田は椿めがけてダイブしてきた。
「あ、あの、ありがとうございました。でも、添い寝する必要あるんすか」
「必要ある。俺、普段の椿君には癒しを求めてるの」
「い、癒し……?」
持田がすうっと椿の身体を撫でる。突然の不意打ちにぞくりと肌が粟立つ。
「椿君の横で寝てると悪い夢も見ないし、やけに落ち着くの。ピッチの上とプライベートは別だろ?切り替えも大事じゃね」
「何かあったんですか?」
椿に問われて、持田は一瞬、間を置きながらも答える。その表情はどこか寂しげだ。
「……昔のことだよ。こう見えても、俺ってセンシティブなんだわ」
「……持田さん」
そういえば、持田はあまり自分のことを話さない。こんなに近くにいるのに、彼の奥底なんて少しも知りやしないのだ。
「そうですね。もう少しだけ寝ましょうか」
「んっと、その前に」
すると、持田は椿にそっと唇を寄せた。冷たくもやわらかいくちづけ。椿が呆然としていると、「おやすみのチュー」と言って、持田はまたベッドの中でもぞもぞと丸くなり、寝息をたて始めた。
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