サッカーが好きだ。気がついたら大好きになっていた。はじめは「みんなと楽しむ」のが目的のひとつだったのは否定しないけれど、自分の中でどんどんプレイに手応えを感じだした時、本当に好きになった。

名門校には進めたが、結局、高校選手権とかそういった華のある舞台とは無縁だった。それなのに武蔵野から声をかけてもらった時は驚きすぎて、「もしかしたら騙されてたりして」とすら思ったこともあった。
でも、現実は厳しいということも同時に痛感した。FC武蔵野の所属するニッポン・フットボール・リーグは基本的には社会人とアマチュア主体のリーグであったし、FC武蔵野も例外ではなかった。慣れない一人暮らし、バイトに明け暮れ、へとへとになった身体でサッカーに集中する。半年近く、こんな毎日が続いていた。大舞台に憧れつつも、「このままで終わってしまうんじゃないか?」という諦めもどこかで感じていた。

バイトの帰り道、街頭の大きなスクリーンで代表戦を中継しているのを見かけた。忙しすぎてそんなことすっかり忘れてた。群衆に揉まれながら、よく見える位置を探す。1‐1のちょうど後半30分だった。日本代表は決め手に欠けたまま、親善相手の東欧某国はあまりやる気がないといった風で、ひたすら細かくパスを繋ぐばかり。スクリーンの中の国立競技場のピッチに立つ選手たちはサッカーを心から楽しめているのかな?、と項垂れた時、群衆の最前列から「モチダ!モチダ!」と声が上がる。

(あ、あれ東京Vの持田だ)

持田が投入された途端、日本側の空気が張り詰めだした。時折、ボールを持った持田をカメラが大きく抜く。ぎらぎらした表情だったが、「少なくとも、この人は本気でサッカーを楽しんでいる」と椿の目には映った。試合はロスタイム間際に持田のアシストで、日本が追加点を取り、どうにか勝ち逃げた。



「……それが俺との出会いって言うんだ。じゃあ、これは運命的な恋ってやつなんだ。ウケる」

目の前でアイスラテを片手に持田が笑う。

「う、ウケるとか言わないで下さいよっ!」
「椿君は真っ正直だね。俺、そういう子、結構タイプなんだよな」

プロになって、トップに上がれて、あの時、スクリーンの中にいた持田とはこうしてカフェで談笑するような仲になった。たまにこれは夢で、ふとしたきっかけで覚めてしまうんじゃないかと椿は思う。

「そんなに想ってくれてたとは知らなかった」
「俺、あの時の持田さんと笠野さんがいなかったら、腐ってたまんまだったかもしれませんから」

椿が少しはにかむと、持田はそっとさするように椿の背を撫でた。

「正直言うとさ、あの時の試合はダルいしつまんねえと思ってたよ。けど、気づかないところで少年少女に夢を与えてたわけだ。感動的な話だよ。……そして、椿君は今俺の隣にいる」

持田が椿の背にやっていた手にぐっと力を込める。

「運命とかそういうの信じないっつうか、どうでもいいタチなんだけど、君がそこまで言うなら俺もその運命ってやつに乗っかってみようか」


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