基地全体のセキュリティーを管理する基地内の研究施設の一室。並べられたディスプレイの一つに映る三人の話の内容に、その場に居た研究員全員が目を丸くした。何故それを、まさかそこまで知っているのか、ではあれも。ざわめき立つ広くもない室内で、研崎が眉間に皺を寄せた。


(予想以上だ。まさか、ガゼルがそこまで……)


ガゼルは他の二人とは異質の危険さがある。ガゼルもとい涼野風介という子供は常々何を考えているか分からない。ボーっとしている訳では無い、それどころか頭の回転が早く恐ろしい程だ。三人の中で最も警戒していた筈のガゼルの行動の早さに驚愕と焦燥を覚える。


「あーあ、大人が揃って情けない」


その場に居た全員が、緊迫する室内に不釣り合いな、明るい少年の声がした方へ振り向く。部屋の扉を背に立っていたのは、不気味な笑みを湛えたグラン。彼を見た瞬間、研究員達は後ずさり、ひっという小さな悲鳴を上げる。ただ研崎だけは、その場から動かずグランを睨んだ。


「勝手に入るな」
「好奇心旺盛なものでね、誰に似たんだろう」


ふっと目を細めて、不気味な程柔らかく笑う。


「機械?それとも、吉良ヒロト?」
「親孝行でもするって言うのか」
「何それ。したこと無いから分かんないや」


首を傾げたグランに構っている場合ではないと、彼を無視して研崎は携帯を取り出した。盗聴の心配が無い特殊な携帯で、吉良星二郎への連絡用である。


「研崎です。……はい、ですから準備は整っていませんが、“180番”の不具合も無いようですし、計画を実行に移しましょう」
「なになに?何の話?」
「貴様には関係ない」
「あるだろ。ふざけるなよ」


張り詰めた空気を壊すような茶化した態度をとっていたグランの声音がうんと低くなる。空気は一瞬で凍りつき、研究員達は一人残らず暗い冷凍庫の中に居るような寒気と恐怖に襲われた。研崎は吉良と数回会話した後、携帯を閉じグランに向き直った。


「言い直してやろう。“110番”には関係ない」
「……、ああそう」


威勢の無くなったグランがごく無意識に心臓に手を当てているのを一瞥して、研崎は怯えたままの研究員を連れて平然と部屋を出ていった。グランが当てた手の下に今は無いが本来ならある、刻まれたものの意味する所を、この研究所の人間は全員知っている。勿論グランも。


「……父さんは、俺のこともう……“ヒロト”にはしてくれないの、かなあ……」


自然と口から出た独り言に、グランは自分が“生まれた時のこと”を思い出した。目を開けて広がった世界で初めて見たものは、父の希望の眼差し。覚えている。形は完璧なのに、心がこれではとあの男に笑われた。そう、自分の心は“ヒロト”や“180番”より根幹が廃れ汚れているらしい。精神洗浄も駄目、猫を被るその姿勢はもっと駄目。彼は、“110番”は“グラン”になるしかなかった。


「笑える……」


そう呟いた彼は、その後いつものような不気味な笑みすら浮かべること無く画面だらけの部屋を去った。






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