財閥を営む父親は亡き息子の事故の有力な情報提供者には多額の懸賞金を与えると公表した。しかし、寄せられる情報はどれもまばらで、信憑性の欠片も無いものだった。現場付近の政府が管理する監視カメラはいつの間にか壊れていたらしく、真実を映さない。世間は事故と断定し、父親は途方に暮れた。


『吉良星二郎さんですね?』


父親の元に、顔色の悪い緑髪の男が現れた。







ホームに帰還したガイアのメンバーは、仮面を外してそれぞれ自分の部屋へ戻って行く。無表情のメンバーが半分、次はあれこれこうしようと笑みを浮かべながら去っていくメンバーが半分。ただ一人、ガイアのリーダーである通称“グラン”だけは、複雑な表情のままとある部屋へ向かった。セキュリティーがどこよりも強固な、父の部屋へ。


「ただいま、父さん」
「おお、お帰りなさいグラン――いえ、“ヒロト”」
「今回もお見事でしたよ」
「――うん」


父である吉良星二郎と、研碕という秘書の周りに浮かぶ幾つものディスプレイに映る、破壊の爪痕。救急車とパトカーが走り回り、警察も軍人も列をなして辺りを捜索している。一瞬顔をしかめた通称“グラン”――ヒロトは、直ぐに吉良に向き直って笑顔を作った。


「父さん、晴矢と風介、戻ってる?」
「バーンとガゼルですか?さっき戻って来ましたよ。どうしてですか?」
「……最近政府の防衛も徹底してきたから、もっと効率のいい方法を考えようと思ってね」


もっともらしいことを言うヒロトに、吉良は満足げに頷く。自分を信頼してくれている父に対して嘘を吐くことは少し心苦しかったが、理由も分からない破壊活動なんてもう止めて欲しかった。
ヒロトを始め、破壊活動をする子供達はその意味を知らない。
そもそも子供達は吉良の経営する孤児院出身で、吉良を父と慕い敬愛している。そんな父から突然「悪の政府を倒す」と言われ、反対する子供は一人も居なかった。吉良が悪と言ったものは子供達にとっても悪なのだ。吉良から渡された不思議な宝石を身に着けた子供達は超人的な力を得て、政府を憎みながら破壊を行う。そんな仲間達も、もう見たくなかった。


「そうですね、次から活動範囲を拡大する予定ですから」
「…、……何だと?」


吉良の言葉でなく、隣に立つ研崎の言葉だった。決定権は吉良だが、大体の計画を立てているのはこの不気味な男だ。吉良は彼を信頼しているようだが、ヒロトはこの研崎という男は信用ならないと思っている。今言った内容も計画したのは研崎だろうが、吉良は笑顔のまま何も言わなかった。
――つまり決定事項なのだ。


「今までは政府塔付近の準中央区域のみでしたが、これからは一等から三等区域まで範囲を拡大します」
「な……!?」


中央区域は政府塔の聳える一般立入禁止区域だ。中央区域はまだ攻撃してはいけないという命令から、ヒロト達が破壊を行っていたのは準中央区域のみだった。準中央区域とは、政府に携わる人間が住み、大企業の本社が置かれたりする区域だ。政府要人や政府に関わる建物があるから、政府は悪だと言う吉良に従い準中央区域を破壊することが出来た。しかし、一等や三等とは居住区のランクの略称で、研崎は一般人の住む居住区を破壊すると計画し、吉良はそれを了承したということになる。ヒロトはとうとう吉良に対して反抗した。


「どういうこと父さん!中央区域の間違いじゃ…」
「いいえ、間違えてなどいません」
「悪いのは政府だけじゃないか!関係ない人を巻き込んでいい訳ない!そもそもどうして破壊活動(こんなこと)するの!?」
「圧政に苦しむ人々が居ることを知っているでしょう。特に外部区域の人々は、今も政府に苦しめられています。やはり政府は悪だ」
「…確かに政府が酷いことをしてるのは知ってる。でも他にも手段はある。…俺は今まで何人も見てきたよ。準中央区域で、巻き込まれて倒れている人達を。その人達全員が悪いの?全員が、酷いことしたの?違うでしょ!?」


怪我をして倒れている人々の中には、子供も居た。そして、その子供を守るように抱きかかえる母親も。瓦礫の下敷きになった老婆を助けようとしていた青年も、騒動で迷子になった子供を必死で宥める少女も、家や恐らく勤務先であろうビルの無惨な姿を見て涙を流す家族も。破壊活動は準中央区域の平和を乱すだけだと、ヒロトはその区域の人々を見て思っていた。


「圧政を改善するなら、外部区域の人達と協力すればいい。そこには姉さんも居るんだ。今の政府のやり方が気に食わない権力者だっていっぱい居る。それでも破壊活動をする理由って――」
「“お前”には関係ない!!!」


滅多に聞かない吉良の怒声に、ヒロトは思わず息を呑んだ。吉良は立ち上がり、そのままヒロトに背を向けて奥にある自室へと帰ってしまった。
話がうやむやのまま終わったのが不安で、吉良の怒りが衝撃的だったが、ヒロトは居住区を攻撃するなんて聞いたら仲間達も反対するだろうと考え、吉良を呼び止めず俯いた。しかし、残った研崎が放った言葉はもっと衝撃的だった。


「――既に一等区域にジェミニストームとイプシロンが向かいました。ガイアは暫く準中央区域担当でしょうから、命令があるまで各自待機していてください」
「!?嘘だ、みんな了承したって言うのか!?」
「ええ、快諾でしたよ。ジェミニストームもイプシロンも」


信じられない、という絶望が唖然としていた彼の表情を塗りつぶした。ジェミニストームのリーダーもイプシロンのリーダーも、破壊活動が始まってから暫く会っていない。しかし、勿論ヒロトは誰がリーダーを務めているのか知っている。“あの”二人が居住区への攻撃を認める筈がないと信じる気持ちは最早確信だった。それなのに。


「たとえ貴方でも――いや、“貴方では”、あの方を止められませんよ。大人しく待機していてください」
「――…解ったよ」


投げやりに返事をすると、ヒロトはすぐさま画面だらけの部屋を後にした。そして、やや疲れを引きずった足で、会いたい人達に会いに行くことにした。






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