不可解な点は幾つもあった。何度も現場検証を行う割には、ニュースには毎日同じ情報しか流れなかった。それは被害者の親族も同じで、特に被害者の父親は深く悲しんだ。同時に父親は、酷く自分の行為を悔いた。ああ、政府塔勤務を許さずに、財閥を営む自分の跡取りになるよう強く説得していれば。政府の人々は父親に言った。
不幸な事故だった、と。







ウーウーと喚くサイレンの意味も虚しく、破壊の音が政府塔付近を支配している。数ヶ月前、突然始まった破壊活動は警察レベルでは抑えられず、政府はとうとう軍隊を投入した。しかし、精鋭の軍隊にも破壊を止めることは出来なかった。それどころか、幾つかの部隊は壊滅にまで追いやられてしまった。更に政府の頭を悩ませるのは、破壊を行う何者かが、不気味な仮面を付けた15歳程の子供であるという点だった。
宇宙人のような白い衣装に身を包んだ子供達の手に握られた銃。一見すると普通の大きさのリボルバーだが、トリガーの引かれた銃が吐き出すのは特殊な過程で生成される“力を失わせる”弾丸だ。その効力は広範囲に及び、建物を崩壊させる。
事前に仕掛けた爆弾が全て役目を果たしたのだと数十と轟いた爆発音のみで確認すると、白い子供達は一斉に政府塔に銃口を向けた。



「――ストップ。“それ”はナシだよ、みんな」
「何故だ」
「理由、話さないと分からない?」



父さんがまだ壊しちゃいけないって。一向に銃口を逸らさないガイアのメンバーの視線を受けて彼ら彼女らにとって最優先すべき理由を告げる。青髪の少女は腑に落ちないといった様子で銃を下ろし、政府塔を睨んだ。



「こんなに近くに父さんを苦しめてきた奴らが居るというのに」
「……仕方ない、でしょ。だいぶ派手にやった、早く退くよ」



さらさらとした赤い髪の彼が先頭になって走り出すと、命令に従って仮面の子供達も走る。彼は全員が付いて来ていることを確認し、襲撃地帯からの脱出を目指す。軍服を纏った人々が何人も倒れているのを素通りする。そこには、明らかに一般人と見て取れる人が何人か混じっていた。



(……間違ってる。父さんはやっぱり間違ってる。でも、俺はどうしたらいいのかな……?)



一人で悩む癖があると、賢い友達に指摘されたことがある。もっと頼ってみろと、割と短気な友達に怒鳴られたことがある。
父に恩を感じてか、破壊活動に尽くす子供のほとんどがこの活動に意味を求めようとしない。その気持ちが分からない訳では無いが、やっぱり間違っている。しかし二人ならきっと、詳しい訳も知らされぬまま始まった破壊活動に疑問を抱いている筈だ。
倒れた人々へ湧いた罪悪感すら今は素通りするしか無く、彼は走りつづける。帰ったら、会いたい人が二人いる。焦りを抑えて周囲を警戒していると、やけにいい聴覚が軍靴らしい駆け足を拾った。



「……来たね。ホームへの帰還が最優先、交戦はしない。加速するよ、ちゃんと付いて来てね」
「了解、グラン」



風のような速さで走る子供達を止めるどころかもう視界にも捉えられはしない。数分後、全速力で軍隊が駆けつけた時には、仮面の子供達は彼方の闇に溶けていた。






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