ベッドの傍の床に座って読んでいた雑誌の未読ページがだいぶ減った頃、背後でガサガサと音がした。振り返れば、ベッド上のヒロトが自分のショルダーバッグの中を探っていた。



「どしたの?」
「リップ…」



ヒロトはたった一つの単語を呟いてバッグの中を探り続ける。勿論それだけでヒロトのしたいことは理解出来る。だが手伝うような内容ではない。再び視線を雑誌に戻した時、あった、という声が小さく聞こえた。なるべく振り向かずに、横目でヒロトを視界の隅に捉える。苺が描かれているピンク色のスティック状のリップクリーム。随分可愛いなと一瞬考えた後、キュ、というキャップの音がした。容器と似た色のスティック状のクリームがヒロトの上唇に触れる。軽く塗った後は下唇。こちらは軽く一往復。塗り終わった後、ヒロトは上唇と下唇を合わせる。ぱ、というリップ音が響いた。そんな一連の動作をオレは、気づいたら体勢を変えて凝視していた。流石に気づいたヒロトが、ああ、これ、と少し勘違いをしてリップクリームを指差した。



「姉さんがくれたんだ。折角だから使ってるんだけど、ちょっと可愛すぎるよね」



だから部屋とかじゃないとあんまり使えなくて、と苦笑いの形を作る唇から甘い香り。オレが気になってたのは可愛いリップクリームじゃなくてそっちだ。ヒロトの潤った唇から苺の甘い香り。どんな味がするんだろうと考える。



「リュウジも使っ」



てみる?、と続く筈だった言葉を遮って有言実行。目を見開いて、突然のことにとても驚いた様子のヒロトはとりあえず気にせずに、彼を逃がさないように彼の両肘を掴んで噛みつくように口付けた。ヒロトの抵抗が弱くなる。



「んん…っふ…」



キスの合間から漏れる声に高揚感を覚えながら、苺味の唇を味わう。そこまでの時間が長かったからか、唇を割って舌を差し込んだ時、ヒロトが弱々しくオレの腕を叩いてきた。少し惜しいな、と思いながら最後にヒロトの唇を飴のようにペロリと舐めた。ヒロトの肩が小さく震える。



「ごちそうさま」
「…どういたしまして」



わざと手を合わせてこう言ってやると、珍しく顔を苺みたいに真っ赤にさせたヒロトが目線をオレに向けずに小声でそう返した。ヒロトの言うとおり、オレはそのリップクリームをあまり外で使って欲しくないと思う。そして次瞳子さんに会う時、お礼をしようとも思った。





20101014




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