イナズマジャパンのFWが三人。フィールドの上で固まってうんうん唸っている光景は、端から見たら首を傾げてしまうものだろう。ああでもないこうでもないと、話し合う最中に陽は沈んでいく。事の発端は三人の中、どころかチームで最年少の少年のある言葉だった。



『必殺技、作りましょう!』



豪炎寺さん、ヒロトさん、と手を取られ、期待の籠もった真っ直ぐな視線を向けられれば、いつの間にか二人は釣られるように首を縦に振っていた。三人での協力技というのは、そう簡単に出来るものではない。経験のある豪炎寺やヒロトはそれを重々承知していた。勢いに押されて承諾した部分もあるが、もし必殺技が完成すればチームの大きな力になる。来たる海外の強豪チームとの試合に備え、三人は早速特訓を始めることにした。――とはいえ、やはりそう簡単に必殺技は完成しない。なんとか形だけは出来たものの、それぞれのタイミングが噛み合わないのだ。三人での連携の難しさはここにある。



「ポジションを変えるか?ヒロトや虎丸をセンターにするとか」
「いや、この中じゃ君が一番キックが強い。変えるとしたら俺と虎丸君だ」
「ヒロトさん、やってみましょう!」
「そうだね――あと、豪炎寺君はもっと思い切り蹴ってくれて構わないよ。俺と虎丸君が、軌道を調整する」
「分かった。頼むぞ、二人共」
「はい!」
「もちろん」



よく見ているな、と豪炎寺は思った。本人の前でなくとも言える筈がないが、流石は元ジェネシスのキャプテンだと、心のどこかで感心してしまった。ぼさっと立っているだけの豪炎寺に、虎丸から試し打ちの催促が飛ぶ。新しく豪炎寺の右側に虎丸、左側にヒロト、という配置になった必殺技。三人は互いに顔を見合わせ頷いた後、走り出した。
ところが、シュートを撃った直後、事故が起きた。
確かにボールは力強く炎を纏うような勢いでゴールへ向かっていき、見事ネットに吸い込まれた。しかし、位置を変えた両脇の二人と今までよりも強く蹴った豪炎寺、先ほどまでの状態と全く違う今回は、三人の体勢を崩した。
短い悲鳴の後、ドタドタと重力に従い彼らが地面倒れる音がフィールドに響いた。



「痛てて…二人共、大丈夫ですか!?」
「ああ…!ヒロト!?」



珍しく驚いたような表情の豪炎寺の視線の先には、左膝から血を流し、上体を起こして膝の周りをおさえているヒロトが居た。豪炎寺は内心穏やかではなかったが、自分の何倍も慌てふためいている虎丸を見て状況を打開するために極めて冷静に努めた。



「虎丸、落ち着け」
「でっでも、俺が蹴る時バランス崩したから…」
「大丈夫だよ。それに、俺もバランス崩しちゃったんだ」



おあいこだと笑ってみせるヒロトの表情はぎこちない。血でまみれた膝の周りに砂が多く付着している。出血も収まっていない。すぐに傷口を洗って処置をしなければ、悪化してしまう恐れがある。そこまで考えて、豪炎寺は眉をひそめた。その程度なら本人も知っているだろう。しかし、立って体勢を変えられる豪炎寺と虎丸と違い、ヒロトは立とうとしない。立てないようだ。豪炎寺は泣きそうな声でヒロトを心配する虎丸の肩を叩いた。



「…とりあえず、お前は救急箱を調達して宿舎前で待ってろ」
「は、はい!」



宿舎へ駆け出した虎丸を確認して、豪炎寺はヒロトへ向き直り、立てるかと聞いてみた。ヒロトは苦笑いで謝った。謝るのは自分の方だと言う言葉は後に、豪炎寺は時間が惜しく感じて、両手を伸ばした。当然、ヒロトはその手を取ろうと手を伸ばしたが、急にしゃがんだ豪炎寺はヒロトの手をすり抜け――彼の背中と、慎重に膝の裏に両手を伸ばし、肩と膝を支えて立ち上がった。一瞬、持ち上げられたヒロトは何が起きたのか分からない表情をしたが、自分と豪炎寺の顔が近いことに気づけば、こちらも珍しく顔を赤くして、そのまま何事も無かったかのように水道に向かう豪炎寺を慌てて止めようとした。



「ちょ、ちょっと豪炎寺君!下ろしてよ!?」
「?どうして」
「ど、どうしてって、これ」



所謂、お姫様抱っこ。
辺りが暗いとはいえ、もし今の格好を誰かに見られたりでもされたら、と考えてヒロトは紅潮した顔色を今度は青くする羽目になった。格好に対して何の疑念も抱かない豪炎寺の表情は、ヒロトからはよく見えなかった。



「…そうか、すまない。夕香が転んだ時、よくこうしていたんだ」
「あ、そうなんだ…じゃなくて」
「もう一つ謝りたいことがある」
「へ?」



出来れば即刻下ろすか、または水道が来いとさえ思っていたヒロトの耳に、しんみりとした豪炎寺の声が飛び込む。



「俺のせいだ、すまない」
「…虎丸君にも言ったけど、これは誰のせいでもないよ?」
「…俺が倒れる時、お前の肩を押しただろう。バランスを取るのが上手いお前が、蹴る時はまだしも崩れたバランスを元に戻すくらい、何もなければ出来たはずだ」
「買いかぶりすぎだよ。俺だって無茶なバランスの一つや二つはある」



そう言ったものの、ヒロトは心当たりがあることを誰よりも知っていた。確かに、蹴る時崩れたバランスを元に戻そうと体を捻った途端、左肩に何かがぶつかった。更に体勢は傾き、ぶつかった左肩、つまり主に左半身は重力に従って、そのまま手をつく間も無く左膝から地面と激しく衝突。痺れと痛みが同時に左膝を集中したと思ったら、あの有り様だった。しかし、たとえぶつかったのが豪炎寺だとしても、怒りなどしない、とヒロトは言うものの、豪炎寺も一歩も譲らない。



「だが…」
「…分かったよ。じゃあ俺の言うこと一つ聞いてくれたら許す」
「…な、何だ?」



そういう切り返しは予想外だったのか、そばで動揺が感じられた。しかしヒロトの放った言葉もまた、違った意味で予想外なものであった。



「必殺技…完成させよう、絶対に」
「!、……ああ、もちろんだ」



深く頷いて、絶対に、と加える。豪炎寺の返事を聞いて、ヒロトは満足そうに笑みをこぼした。やや早足気味の足取りのおかげで、すぐに水道は見えてくる。傷口を洗って、ヒロトの部屋で措置を取る予定である。しかし、水道が見えたその時点でヒロトを下ろしていれば、事情を聞いた円堂と救急箱を持った虎丸に見られることもなかったのだが、それはまた別の話。





20100920




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