イナズマジャパン全員や監督、マネージャーたちとの夕飯を食堂で済ませ、選手たちは大浴場に向かう。風呂から上がったヒロトは、真っ直ぐ自分の部屋へ歩き始めた。まだ風呂に入っている選手もたくさん居るが、ヒロトは長湯が得意ではない。丁度良いタイミングで早々に退散し、部屋でゆっくりすることに決めてある。ドアノブをひねり、テレビのチャンネルを適当に回した後、早速ベッドに寝転がった彼は、チームメイトから借りたスポーツ雑誌を捲って読み始めた。
雑誌を読み始めてからそれ程時間が経っていない頃、窓ガラスを叩くコンコンというノック音が部屋に響いた。ヒロトは突然の出来事に警戒心を高めたが、窓にチラと写った見覚えのある姿に驚き、飛びつくように窓を開けた。



「マーク!?どうして…」
「シーッ、静かに」



立てた人差し指を口元に添えて小声になるその人、マークに釣られて受け答えが小声になったヒロトは、彼の状況や体勢に気がついた。ここは二階だ。ヒロトと同じ位置に顔を持ってくるには、それだけの高さが必要になる。マークはヒロトの部屋の窓の近くまで伸びている木の枝に乗っていた。枝と言っても太く頑丈そうで、バランスを取れているらしいマークを見れば安定していて心配など要らないように思えるが、万一足を滑らせて転落でもしたら怪我以上の被害は免れない。慌ててヒロトは手を伸ばす。



「な、何で正面から来ないんだ!ほら、早く入って!」
「こういうのはこっそり会いに来るからいいんだろう?…よ、しょっと」



しれっと言ってのけるマークに若干呆れつつ、ヒロトはマークの手をしっかり掴んだまま後退した。マークはそれに従ってゆっくり窓枠に足をかけ、部屋に飛び込んだ――瞬間、腕を強く引っ張りすぎたヒロトが悪いのか、勢いよく飛び込んだマークが悪いのか、窓枠に足を引っ掛けたマークがヒロトに体当たりするような形となってしまった。互いにうわ、という短い悲鳴を発した後、ヒロトが背中を床に打ち付ける痛そうな音がして、う、という唸り声が漏れた。今度はマークが慌てて下敷きにしてしまったヒロトを抱き起こす。



「だ、大丈夫か!?」
「いたたた…大袈裟だよ、大丈夫」
「そうか…良かった…」



ただでさえ良くない顔色、力を込めれば折れてしまうのではないかと錯覚しがちになる細い身体といったいつものヒロトを思い浮かべたマークは、その“いつもの”ヒロトとはどこか違う様子のヒロトを見つめた。細い身体は変わらないが、顔色は若干良い気がする。というより、上気した肌が健康的に見せているのだ。濡れた赤い髪と相まって、風呂上がりという結論に至り、マークは一人納得する。一方、見つめられたままのヒロトは何が何だか分からず首を傾げる。その何気ない動作によって、マークは彼に今までと違う視線を送らざるを得なくなってしまった。額や頬に張り付く髪、いつもよりほんのり赤い肌、やっぱり痛かったものは痛かったのであろう、僅かに潤んだ緑色の瞳、ヒロトからふんわり漂う、シャンプーのいい香り。加えて彼が纏うシンプルなTシャツと半ズボンは、ユニフォームでは晒されることのない部分を晒している。その光景に、マークは徐々にヒロトを押し倒したままの体勢に戻そうとする。勿論ヒロトはその意味が理解出来ずにマークを呼び続ける。



「マーク?どうし、っひ!?」



突然首筋を舐められたヒロトは小さく悲鳴を上げた。肩が一瞬びくっと跳ねる。マークを押し返そうと彼の両肩に手を置いたが、体勢的に不利なことと、力が抜けてしまったことで押し返すという行動は不可能になっていた。



「オレが今から何をするか、本当に分からないか?」
「ふっ、あ、み、耳元やめ、て」
「やめない」



耳元で息を吹きかけられつつ、心地よい低音で囁かれる。ぴちゃ、と響く水音。耳から直接伝わる舌のざらっとした、ぬるっとした感覚に耐えられずに、ヒロトはぎゅっと目を瞑る。



「ヒロトが悪いよ」
「何でそうな、あぅ、ちょ、ほほ本気!?」
「ん?ああ、そうか」



流石に今のマークの様子と自分のこれからに気づいたヒロトが恥ずかしさから顔を真っ赤にさせて抗議すると、マークは分かったと言ってヒロトをベッドまで運んだ。ヒロトは分かってくれたのか、と疑いつつ――再びベッドの上で自分に覆い被さってきたマークを確認して青ざめた。



「床でヤりたくないよな」
「ち、違う!どうしたらそうなるのっ!?大体オレ風呂上がりだし!」
「アメリカではよくあることだ」
「聞いてよ!」
「今更恥ずかしがるなよ」



そういう所も可愛いけど、と言ってヒロトの汗で張り付いたTシャツに手を忍ばせて、胸の飾りを指で弄る。自分の口から情けないくらい高い声が出て、ヒロトはもうマークに何を言っても無駄だと考えると、ベッド上の借り物の雑誌を床を滑らせるように遠くへ投げ飛ばす。



「Let's eat ,You whom I love very much」
「Please eat ,You who are hasty…!」







20100911










いただきます
愛おしい貴方

召し上がれ
せっかちな貴方





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